社長の一言集

第85号 世間(全て)は正しいと思おうよ

2013/06/28
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 世間(全て)は正しいと思おうよ
                                                       2013年85号
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「遇(ぐう)と不遇とは時なり」

『論語』に出てくる孔子の言葉です。
諸国遊説の旅で、どの君公にも受け入れられず困窮を極めていた孔子に弟子の
子路が「君子も窮するか」と、問いかけます。
その時の孔子の言葉が「遇(ぐう)と不遇とは時なり」です。
遇と不遇とは、時の動きによるものであり、自分の力ではどうしようもない時が
ある。しかし、不遇だからといって必要以上に落胆することはない。
そういう時こそ自分を慎み、時の来るのを待つことだと諭したそうです。

この孔子の言葉で私が思い出したのは、松下幸之助翁の戦後、苦難の時の一言です。
※松下幸之助翁の愛弟子、木野先生から聞いたお話です。
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  戦後、松下電器は財閥指定を受け、松下幸之助翁をはじめ多くの幹部が経営
 職を解かれ、工場もまったく操業が出来なくなり、倒産寸前にまで追い詰めら
 れた時期があったそうです。
 どんなに陳情や嘆願をしても聞き届けてもらえない苦難が何年も続きます。
 幸之助翁も、いよいよ観念して、主だった幹部を集め最後の宴を催し、それぞ
 れに形見のような品まで配ったそうです。
 その後、静かに宴を抜け出し、一人で宵闇の庭に立つ姿は、絶望感に押しつぶ
 されそうだったそうです。
 心配した一人の幹部社員が駆け寄って幸之助翁に後ろから声をかけると、
 前を向いたままで、ぽつりと幸之助翁は、「世間は正しいと思おうよ。」と
 おっしゃったそうです。
 戦争という激動の時代に、日々努力を重ね、やっと大企業と言われるまで
 成長した松下電器でしたが、日本の軍部から様々な要求を突き付けられ、
 船をつくったり、飛行機をつくったりした事により、財閥としての容疑を
 かけられたのです。
 GHQの不条理な判定で、どんなに弁解、嘆願しても聞き届けてもらえず、財閥
 解体が進む中、さすがの幸之助翁も根尽きた時だったのでしょう。
 それでも、絞り出すように「世間は正しいと思おうよ。」と不遇を肯定した
 言葉を発したのです。
 それは、声をかけた幹部社員に対してではなく、自分自身に言い聞かせたの
 かもしれません。
 松下は何も悪くない。世間は全然正しくないのです!
 しかし、それを渾身の気力で受け入れたのが「思おうよ」という言葉だった
 のでしょう。
 「世間だけではなく、身の回りで起こる全ての事が正しい」という境地です。
 この境地を得たことで、幸之助翁の「それも又よし陽転発想」が生まれたの
 かもしれません。
 その後、財閥指定が解かれ、松下は世界の松下へ発展していきます。
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若いときには、
「失敗の経験を敗北としないこと」
血気盛んなる時は、
「少し運が向いてきたからといって驕(おご)らないこと」
老いては、
「遇、不遇を淡々として深め修すること」と、孔子の話は続きます。

明治時代の俳人、正岡子規の病床で最後に残した随筆集「病床六尺」の中の
好きな言葉です。
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 余は今まで禅宗のいわゆる悟りといふ事を誤解して居た。
 悟りといふ事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思って居たのは間違いで、
 悟りといふ事は如何なる場合にも平気で生きて居る事であった。
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今の世の中、平気でなくても、平気で生き抜く胆力が必要です。
凡人には、悟ることは大変困難ですが、どんな時でも平気を保ち、
感謝を生み出すことが「自らの成長の源」ではないかと思います。

                         株式会社リゾーム
                          代表取締役 中山博光

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