社長の一言集

第78号 「慎重とは急ぐことなり」

2012/11/30
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 「慎重とは急ぐことなり」
                                                       2012年78号
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明治20年、静岡県浜松市の浜松尋常小学校(現在の元城小学校)で1台の壊れた
輸入オルガンの修理をきっかけに、オルガン製造を始め、現在では世界的な
ブランド企業に成長した会社があります。
創業者の名前は、山葉寅楠氏といいます。
当時は「日本楽器製造株式会社」という社名で、1987(昭和62)年10月に
現在の「ヤマハ株式会社」の社名に変更しました。

戦後、川上源一氏がこの会社の4代目の社長となり、事業の多角化、拡大を
行った時の名言が「慎重とは急ぐことなり」です。
正直、私はこの言葉の意味が理解できませんでした。迷言?です。
「慎重」と「急ぐ」という単語が頭の中で繋がらなかったのです。

今年、創業125年を迎えるヤマハという会社の取り組みは実に多彩です。
創業時のオルガンの製造から、ピアノや様々な楽器の製造に拡がります。
ピアノの製造で木工のノウハウが出来ると、家具作りもおこなっています。
戦時中に軍から「家具作ってるんだから木製のプロペラ作れるだろ」と言われ
戦闘機のプロペラを作り、その延長線上でエンジンも作ってしまいました。
戦後は、そのエンジンの技術を活かしてバイクを作り、更に船も作りました。
音楽事業で電子楽器を作り、その過程で、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)
を作り、DSPを他に利用しようとしてルータも作りました。
そして最近は、産業用ロボット、半導体、会議システムまで作っています。

経営コンサルタントの大前研一氏は「戦後の経営者の中で誰が一番すごかったか?
という質問を受けたら、私は迷わずにヤマハの川上源一さんと答える。
創造的破壊力においては、誰も寄せ付けないくらい強烈なイノベータであった。」
と、その印象を述べています。

私は、ヤマハという会社の歴史を見て、「わらしべ長者」の話を連想しました。
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昔、ある一人の貧しい男がいた。貧乏から何とかして逃れようと観音様に願を
かけたところ、「初めに触ったものを、大事に持って旅に出ろ」とのお告げを
もらいます。
観音堂を出て早々、つまずいて思わず掴んだ「わら」からはじまり、アブ、密柑、
反物、馬と代わり、最後は大きな屋敷まで手に入れるというおとぎ話しです。
その節目節目で、貧しかった男は必ず相手の困っている事、願い事に沿う事で
チャンスを掴んで行きます。
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川上氏の事業戦略のユニーク性は、「人間が生きていくための生活必需品は一切
作らず、ひたすらその生活や人生を豊かにする製品やサービスを提供する」とい
う点にありました。
そして時代の変化を見事に掴み、事業の過程で掴んだ技術で更に次の事業を生み
出していくという、世界にも類を見ない特異な企業にヤマハグループを導いてい
ったのです。

更に特筆すべきは、商品づくりへの徹底したこだわりです。
「いいピアノを作るにはどうしたらいいのか?」という取り組みについて
鍵盤の材料となる木の種類、乾燥の仕方、乾燥期間を変えて実験する。
弦の張り方、弦を張る鋳物の材質を変えて更に実験するという風に
膨大な手間と時間をかけて、実に18万通りのピアノを作るのです。
18万通りの中からいいピアノを生み出す執念は畏敬の念すら感じます。

私はこれらの取り組みを読み、「慎重とは急ぐことなり」という言葉は、
「慎重とは(準備を)急ぐことなり」という加筆で解釈してみました。

慎重な人ほどあらゆる可能性やリスクを想定し、対応策をしっかり準備します。
準備は時間がかかりますから、急がないと時代の変化に乗り遅れてしまいます。
そして、いったん決断すれば大胆に実行に移します。

逆に憶病な人は、不安やリスクを思い描けど、対策を考えません。
準備もしません。ほとんどが傍観して評論ばかりしています。
いつまでたっても行動に移せないのが実態ではないでしょうか。
切羽詰まって突然行動に移しても、ほとんど失敗します。

今後、加速して押し寄せて来るデフレ、グローバル化、少子高齢化、
ネットビジネスの更なる拡大の中で、慎重に急いで何を準備しておくべきか?
が問われます。

                        株式会社リゾーム
                         代表取締役 中山博光 

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