社長の一言集

第203号「イノベーションは成功のカギではない」

2023/05/30

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「イノベーションは成功のカギではない」

                2023年203号
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

2012年に発刊されたジム・コリンズ氏執筆の書籍を改めて読み直しました。
イノベーション、スピード、適応力等の言葉の深さを改めて感じましたので取り上げさせて頂きます。

ジム・コリンズ氏はドラッカーの教え子であり、後継者とも言われる世界的経営学者です。
その著書『ビジョナリーカンパニー4』(日経PB社)で、経営基盤が脆弱であったにもかかわらず、不安定で不確実な時代に飛躍してきた企業10(十倍)X企業※の事例を、崩れ去った神話(固定観念)と意外な事実に対比して述べています。
※10(十倍)X企業/所属業界の株価指数を少なくとも10倍以上上回る株価パフォーマンス企業
----------------------------------------------------------------------

神話) 大混乱する世界で成功するリーダーは大胆であり、進んでリスクを取るビジョナリー。
意外な事実) われわれの調査対象になった10X型リーダーは、未来を予測できるビジョナリーではない。「何が有効なのか」「なぜ有効なのか」を確認し、実証的なデータに基づいて前に進む。
比較対象リーダーよりリスク志向ではなく、大胆でもなく、ビジョナリーでもなく、創造的でもない。
より規律があり、より実証主義的であり、よりパラノイア(妄想的)なのである。

神話) 刻々と変化し不確実で混沌とした世界で10X型リーダーが際立つのは、イノベーションのおかげ。
意外な事実) 驚いたことに、イノベーションは成功のカギではない。確かに10X型企業も多くのイノベーションを起こす。しかしわれわれの調査では、「10X型企業が比較対象企業よりもイノベーション志向である」という前提を裏づけるデータは出てこなかった。10X型企業が比較対象企業よりもイノベーションで劣るケースさえあった。われわれの予想に反し、イノベーションだけでは切り札にならないのだ。より重要なのは、イノベーションをスケールアップさせる能力、すなわち創造力と規律を融合させる能力である。

神話) 脅威が押し寄せる世界ではスピードが大事。「速攻、そうでなければ即死」ということ。
意外な事実) 環境が急変する世界では素早い判断と素早い行動が求められるから、「どんなときでも即時・即決・即行動」という哲学を取り入れる-----これは破滅を招く効果的方法だ。10X型リーダーはいつアクセルを踏み、いつ踏んではならないか理解している。

神話) 外部環境が根本的に変化したら自分自身も根本的に変化すべき。
意外な事実) 外部環境が急変しても、10X型企業は比較対象企業ほど変化しない。劇的変化に見舞われて世界が揺れ動いたからといって、自分自身が劇的変化を遂げる必要はない。

神話) 10X型成功を達成した偉大な企業は多くの運に恵まれている。
意外な事実) 全体として見ると、10X型企業が比較対象企業よりも強運であるとは限らない。幸運だろうが不運だろうが、10X型企業も比較対象企業も同じ程度に多くの運に遭遇している。成功のカギを握っているのは、運に恵まれているかどうかではなく、遭遇した運とどのように向き合うかである。
----------------------------------------------------------------------

これを読むと、今まで「成功の神話」とされ、理解したつもりになっていた考えが、事実に基づいて検証すると「固定観念」の塊だったという事が分かります。私自身、正に物事のうわべだけしか見ていない、理解していなかったということです。

19世紀ドイツの哲学者ヘーゲルは『法の哲学』の序文で『ミネルバの梟(ふくろう)は黄昏に飛び立つ』という言葉を記しています。
ローマ神話の女神ミネルバは、技術や戦の神であり、知性の擬人化と見なされていました。
梟はこの女神の聖鳥です。一つの文明、一つの時代が終わる黄昏の時に、ミネルバは梟を飛ばしました。それまでの時代がどういう世界であったのか、どうして終わってしまったのか、梟の大きな目で見させて総括させたのです。そして、その時代はこういう時代だったから、次の時代はこういうふうに備えようと、梟の総括を活かしていたのです。

現在、私たちは生成系AIが無かった時代と、生成系AIが登場して以降の時代という大きな節目(場)に立たされています。生成系AIの進化は、想像できないレベルとスピードで社会や産業、個人の生活に変化をもたらします。そのことにより、あらゆるビジネスの盛衰を増幅させます。更に、私たちは、生成系AIの進化だけではなく、今まで経験したことのない自然災害、食糧、水、エネルギー問題と向き合わなければいけません。しかし、残念なことに、誰もが漠然と不安に感じているだけで、よりリアルに我が事として考え、備える事に踏み込んでいません。

「あらゆる状況を想定して準備をしておけば勝利が訪れる。これを人々は幸運と呼ぶ。
事前に必要な予防策を講じるのを怠れば失敗は確実だ。これを人は不運と呼ぶ」
ロアルド・アムンゼン著 『南極点征服』


株式会社リゾーム
代表取締役 中山博光