社長の一言集

第170号「失敗したくなかったら、たくさん失敗しろ」

2020/09/30

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「失敗したくなかったら、たくさん失敗しろ」
                            2020年170号
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今月17日の内閣府の発表では、2020年4-6月期の実質国内総生産(GDP)速報値が前期比年率で27.8%減と、戦後で最大の落ち込みとなりました。

先行きが予測できない企業は、投資抑制、雇用調整を今後加速することになりそうです。

しかし、もっと先の未来を見据えて、挑戦を続けている企業もあります。

『Harvard Business Review』2020年9月号 特集:戦略的に未来をマネジメントする方法
[対談]日本電産は「遠近複眼経営」で飛躍する 危機の時こそ、リーダーはチャンスを探し、夢を語れ
日本電産 代表取締役会長CEO 永守重信氏  一橋大学大学院 経営管理研究科 客員教授 名和高司氏 より
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永守:私は日本電産を創業する時に、50年計画をつくりました。
そして、1973年の7月23日に当時3人しかいなかった社員を前にして、「50年で売上高を1兆円にする」とぶち上げたんです。

当時は第1次石油危機で、世間は不況の波に飲まれているし、社員は「社長、それ1億円の間違いではありませんか」と。5分で終わるはずだった訓示が1時間40分くらいになって、何度も「違う、1兆円だ」と説明しても、「そんなもの、想像もつきませんよ」と誰も真に受けてくれませんでした。

でも、計画より早く2015年3月期には売上高1兆円を突破し、いまは1兆5000億円。
世界一のモーターメーカーになりました。

それで去年、第2の50年計画をつくりました。これはまだ公表していません。
50年後というと私は125歳で、そこまで生きられるかどうかは神のみぞ知るですしね。

より現実的に焦点を当てているのは30年後、2050年の未来です。たとえば、国連の世界人口推計では2050年で97億人ですから、だいたい100億人くらいになる。

その頃になると、人型ロボットが500億台くらい働いていると私は見ているわけです。人間に代わって単純労働をしたり、重いものを運んだりしている。
人間と同じサイズのロボットを動かそうとすると、だいたい600個くらいのモーターが必要です。
いまの大きさのモーターですと、人間と同じサイズに600個は収まらないので、もっと小型化しなくてはなりません。それに、電力消費量も10分の1くらいにしないといけない。
ですから、当社の研究所のメンバーには、「小さくて省電力のモーターを開発しろ」と発破をかけています。

人型ロボットが500億台なんて話をすると、「また永守が大ぼらを吹いている」と思われるかもしれませんけど、いまから120年前に100年後を予測した未来学者がいて、その記録を読むと、一家に一台車があって、一人が一台の電話を持っているというようなことが書かれている。
米国のフォードが量産車を販売する前で、馬車が走り回っていた時代です。

だから、誰かが大きな夢や理想を語って、それを実現していく必要がある。政治家も学者も、誰もそういうことをしないから、私がやっているんです。

失敗したくなかったら たくさん失敗しろ

名和:永守さんは、遠い未来を描いてそこから逆算していまやるべきことを決める一方で、WPRプロジェクトを実行するなど足元の危機や変化にも機敏に手を打ち続けている。言わば、遠近複眼の経営ですね。ただ、夢や理想の追求には、時には失敗もあるかと思いますが、そこはどう考えていますか。

永守:私は「失敗したくなかったら、失敗せよ」と社員によく言うのですが、勘のいい人は失敗しながら学んでいきますよ。
すべての失敗が次の成功に結び付くわけではありませんが、失敗したら反省して、原因を分析して、再チャレンジしてみる。それを繰り返していると、失敗しないコツがわかってきて、成功確率が上がります。

失敗から何も学ばない人はだめですけど、責任が重くなるほど失敗が許されなくなりますから、若い時は致命傷にならない程度の失敗をなるべく多く経験したほうがいい。

私も若い頃はよく失敗しました。

ある製品を開発中だった時、売れるかどうか自信がなくて、悩んだ挙句にオムロン、当時は立石電機の創業者、立石一真さんのところに相談にいったことがあります。
立石さんは、「成功するかどうかは僕にはわからんけど、君はどうしたいんや」とおっしゃるので、「これこれこういう理由で私は開発を続けて、製品化したいんです」と説明したわけです。
すると、「ふーん、なるほどな。トライしてみる価値はあるかもしれんな。」と。

そこで、製品化したら見事に失敗。

立石さんにそのことを報告しにいったら、「ほう、そうか。大したもんや」とおっしゃる。
なぜですかと尋ねたら、「この前、君が来た時に僕は『それは、あかん』という顔をしてたやろ。
それでも自分を信じて突き進んだ君は、なかなか見込みがあるわ」と。

そういう経験もしてきたので、私も「これがやりたい」と言ってきた部下には、失敗するだろうなと思ってもやらせてみるんです。
「どれだけ金がかかるんだ」と聞いて、仮に「10億円です」と部下が答えたとすると、10億円丸々損をするのがわかっているから、「3億円でどうだ」と返す。
それでも、本気でやりたいと思っているなら、「何とか5億円お願いします」と粘ってくる。
そこで、「わかった。やってみろ」とゴーサインを出すわけです。

「失敗するのがわかっていて、なぜやらせるんですか」という社員もいるけど、「危ないからやめろ」と言っていたら、人は育ちませんよ。
逆に言うと、部下に失敗をさせる勇気がないと、人を育てることはできません。

名和:私の研究からすると、学習優位の経営ですね。そして、失敗から学ばせながら、やりたいことを実現させるというのは、日本電産のコーポレートスローガンである「All for dreams」にも通じますね。

永守:若い人に夢を持たせて、その実現をサポートしてあげないと、日本はだめになりますよ。
特にいまのような不確実性の時代には、夢を持って自分で未来を切り拓いていける人でないと、社会の役には立てません。

だから、私は京都先端科学大学も、夢を形にする大学を目指しています。

「君たちは他の大学を落ちて、この大学に来たのかもしれないけど、心配しなくていい。偏差値が高い大学を出た人が偉くなる時代なんてもう終わっている。現に日本電産で、仕事ができる社員、出世が早い社員と出身校の偏差値は何の関係もない」と。

そういう話をしていると、学生の顔がぱっと明るくなるんです。

いまの大学はどこも、スマートフォンで調べればわかるようなことを教員が教えているから、学生はつまらなさそうな顔をしているし、そんな授業を受けていたって夢なんか持てるわけがない。

だから、私は学生にこんな話をするんです。

「社会に出たらすぐに第一線で活躍できる技術と知識を身につけられる教育を、この大学ではやる」
「偏差値で学生を選んでいるような会社はこの先見込みはないから、いまは小さくてもこれから伸びる会社に入りなさい。その目利きを教えてあげる」
「起業したいなら、これからビジネススクールもつくるから、そこに来なさい。僕も必ず講義をしにいくから」、と。

そうやって語りかけていると、学生はぐいぐい引き込まれて、真剣な表情になっていきます。
みんなが明るい未来を描けるような話を、わかりやすい言葉で語りかける。
それは、リーダーの大事な役割だと思います。

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これからは、今まで誰も経験した事のない未知なる「大破壊の時代」の到来です。
しかし、この時代は「危機」であると同時に「転機」でもあり、「好機」でもあります。

デジタルトランスフォーメーション(DX)を取り入れて業務改革を行うだけでなく、コーポレートトランスフォーメーション(CX)により会社を根こそぎ変換できるかが「転機」を「好機」にする要訣です。

そして、どんな失敗でも、自らの成長の糧に転じさせる「信念」、「知恵」そして、「したたかさ(強かさ)」が必要です。

                

株式会社リゾーム

代表取締役 中山博光