社長の一言集

第164号「ただ、今、この一瞬」

2020/03/31

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「ただ、今、この一瞬」
                            2020年164号
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曹洞宗を日本に伝えた道元禅師が中国に渡り、修行を始めた頃のお話です。

ある夏の日、年老いた典座(てんぞ=禅宗の修行道場の台所を預かる僧)が、灼熱のもと、敷き瓦の上で、汗だくになりながら椎茸をひろげ干しているのを見た道元禅師は「どうしてあなたの様なお年を取られた方が、こんな暑い中できつい作務をされるのですか?なぜ若い人にやらせないのですか?」と問うたそうです。

その老典座は「他は是れ吾にあらず」(誰かにやってもらったのでは、自分でしたことにはならない)と、即座に言葉を返したそうです。

さらに道元禅師が、「今は暑い盛りです。暑さがおさまるまで、少しお休みになられてはいかがでしょう?」と問えば、老典座は「更に何れの時をか待たん」(今でなくて一体いつやるのか)と答え、そのまま黙々と作務を続けたそうです。

これに対し道元禅師は二の句がつげませんでした。

老典座のしていた単純な行為を、当人の修行とは気づかなかったこと、さらに今やるべきことを先延ばしすることが、活かすべき今を失うことに気づかされた、道元禅師の若かりし日のお話しです。

他不是吾(他は是れ吾にあらず) 更待何時(更に何れの時をか待たん)

道元禅師は、この時に「而今(じこん)」(ただ、今、この一瞬)を悟りました。
常に、己の人生を活きる。今を活きる。全てを活かしきる。人生の境地です。

現在、世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るい始めています。正に、「世紀の一大事」レベルの事態だと私は認識しています。
2011年の東日本大震災で国難レベルの災害を経験した私たちは、「事後の百策より事前の一策」を学び、備えを続けてきました。

しかし、今回のウイルス感染は、私自身、まったく想定外でした。

震災当時を振り返ったメルマガ(130号)で、ドラッカー博士の言葉を掲載しています。

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幸か不幸か、いかなる組織も危機に襲われる

必ず襲われる

そのときがリーダーに頼る時である

リーダーにとって最も重要な仕事は、危機の到来を予期することである

回避するためでなく備えるためである。

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事業定義が陳腐化してきたときの最初の反応は、保身である。

現実を直視せず何事も起こっていないかのように振る舞う。

次によく見られる反応が、小手先の対策である。

こうして気がついたときには惨事となっている。

今日の日本の苦悩の最大要因である。

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組織、事業定義という言葉を国に置き換えてみると、いまのありさまの警告そのものです。

東日本大震災当時、東北の太平洋岸沿いの壊滅的被災・連続的に続いた地震・深刻な原発事故・計画停電・交通混乱・景気低迷・雇用不安...という負の連鎖がありました。震災後に訪れた仙台の海岸地区の見渡す限りの瓦礫の山、異臭は今でも忘れることができません。

「備える」とは、想定内ではなく、想定以上・想定外の危機に速やかに対応する体制、仕組み、ルールをしっかり用意しておくことだったのですね....。

新型コロナウイルスの猛威は、世界、日本にどのような負の連鎖をもたらし、いつまで続くのか、誰も明確な答えがありません。予測不能です。しかし、日々、状況判断をしながら、適切な対応をしなければいけません。

そして、必ず乗り越えていかなければいけません。

そのためには、囚われず、依存せず、自分自身がリーダーとしての自覚をもって、「而今」を心し、冷静に、素早く実践していかなければなりません。

株式会社リゾーム

代表取締役 中山博光