社長の一言集

第132号 「明日の歩みの真の力」

2017/06/23
松下電器産業株式会社から、株式会社PHP研究所に転籍され、28年間松下幸之
助翁の身近でお仕えした岩井虔氏のお話です。

ある日、松下幸之助翁が外国の記者とのインタビューで質問をされました。

「ビジネスマンにとって一番大事なものは何ですか?」

幸之助翁は、「それは愛されることです」と即答されたそうです。
そして、「そのためには奉仕することです」と付け加えられました。
まさに本質をついた幸之助翁の言葉に深い感銘を覚えたそうです。

広島県に県民の90%から愛され、ありがとうと言われる地方企業があります。
昨年の業績は年商180億円、当期利益が14億円でした。
10年前の2006年は年商が57億円、当期利益1400万円の会社です。

この会社は「株式会社広島東洋カープ」というエンターテイメント企業です。
「球団の経営をしている会社では?」と思われる方もいらっしゃると思います
が、広島東洋カープは、エンターテイメント企業を目指し"地元広島の人々を
楽しませる"ことを、愚直に続けている会社です。

先日、作家で元広島国際学院大学現代社会学部長の迫勝則氏から「なぜ、こん
なに広島東洋カープは愛されるのか」についてお話をお聞かせいただく機会が
ございました。
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従来の球団経営は、親会社が電鉄、新聞社等で、球団を持つ事により、観客の
乗車料収入や、新聞購読数のUP、企業の認知度・イメージUPを目的としたもの
でした。

広島東洋カープは「地元広島を元気にしたい」という目的で、原爆投下から、
わずか5年後に設立され、広島県民が支え育てた親会社のない地方球団です。

設立当時から極度の資金不足で、ジリ貧状態がずいぶん続いたそうです。
しかし、1975年以降は厳しい経営の中でも、連続で黒字経営を続けています。

TV全盛期、球団の収入は試合を放映して得られる「放映権料」が主な収入で、
一時期は30億円もあったそうです。

しかし、消費者のTV離れ、巨人戦視聴率の低下等で、主な収入であった「放
映権料」が10億円にまで減額していきました。
広島は地方の球団ですから、この減額の波はどの球団よりも早かったそうです。

2004年には一部の球団の財務危機があり、球団を集約して1リーグ制が検討さ
れました。実際、統合されたり、IT系の会社に転売された球団も出ました。
その中で、広島にカープは不要ではないかという議論もされたそうです。

広島東洋カープの松田元(はじめ)オーナーは大きな危機感を持ち、電波収入の
空中戦から、地元のお客様に球場へ直接ご来場頂き、楽しんで頂く地上戦強化
の方針を打ち出しました。

地方球場ですから、人口は限られています。
三世代をターゲットに、地元のお客様に心から楽しんで頂ける新球場の建設に
取り組みます。
参考にしたのはアメリカの大リーグ球場ではなく、地方の3Aの球場でした。

2009年に完成した新球場(マツダスタジアム)はホスピタリティスタッフを常時
20名配置して、車椅子のお客様のお迎えからエレベーターの乗り降りまで、徹
底したサービスを追求しました。
又、売店から座席に至るまで、球場の全てが"お客様に喜んで頂く事"を目的
に設計・運営されています。

私も一昨年、義父と試合を見に行きましたが、家族で野球を楽しむ風景が随所
に見られました。正に世代を問わずお客様に喜んで頂けるライブエンターテイ
メント球場です。

観客動員数は2006年の100万人から、2016年には215万人まで伸びています。
球場の入場料収入は58億円で、その観客の50%以上は女性だそうです。

更に、大幅に売り上げが伸びてきているのは「グッズ・ライセンス収入」です。
以前は2〜3億円だった売り上げが、2016年には53億円を超えています。
2016年、リーグ優勝時のビールかけカープTシャツは24万枚も売れました。
自社でプリントTシャツ工場を持っていますので、西日本ではユニクロに次ぐ
Tシャツメーカーとも言われているそうです。

グッズの販売は球団売店、取扱店だけではなく、ネット通販も好調で、広島県
内で4割、関東圏で3割、その他球団の本拠地のある地区でも3割も売れている
そうです。※ここでは、空中戦で健闘しています。

広島東洋カープはお客様に愛される以上に地元を愛し、多くの貢献をしていま
す。
2016年の前田健太投手の大リーグ移籍の際、ドジャースから広島東洋カープに
支払われた譲渡金の中から、恩返しとして地元広島市に5億円の寄付をしまし
た。
4億円は少年野球などのスポーツ広場の整備に、1億円は原爆ドームの修復、保
全費用に充てられました。
更に、毎年キャンプを行っている日南市、沖縄市にもそれぞれ1億円の寄付を
行いました。
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「世のため、人のための経営」は王道の経営であり、どのような環境下でも成
長・進化を続けられる会社に共通する経営目的ではないかと思います。

そして「創業時の精神」、「経営理念」を大切にしています。
広島東洋カープの経営は「創業時の精神」がぶれることなく、しっかり貫かれ
ています。

「松下幸之助日々のことば」PHP研究所編 より
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 人間は一人で大きくなったのではない。
 会社もまた一人で大きくなったのではない。あわただしい日々の中にも、
 ときに過去を振り返って、世と人の多くの恵みに感謝する心をお互いに持ち
 たい。
 その心こそが明日の歩みの真の力になるだろう
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                       株式会社リゾーム
                        代表取締役 中山博光                  
                                                                  
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