どの業務でも、専門用語の理解はその業務をスムーズかつ正確に進めるために欠かせない基盤です。専門用語を理解していないと、コミュニケーションの齟齬や誤解が生じ、業務効率の低下につながるリスクがあります。
特に、商業施設における施設・テナント管理業務のように、テナント・関係会社・施設スタッフなど多くの人と関わりながら進める分野では、幅広い知識とともに、専門用語の正確な理解が一層重要です。
今回は、施設・テナント管理業務に焦点を当て、初めて担当する方が押さえておくべき専門用語を簡潔にご紹介し、実務で役立つ基礎知識をまとめました。
※本用語集では、項目数が多くなるため、「防災・消防」に関する用語は対象外としています。「売上管理」に関する用語については、別途ご紹介する予定です。
また、運営業務に関する専門用語については、すでに一部記事を公開しており、今後も順次ご紹介していく予定ですので、ぜひご注目ください。
■商業施設運営業務において知っておきたい専門用語集
・リーシング業務 編(記事を読む)
・売上管理業務 編 ※近日公開予定
・販売促進業務 編 ※近日公開予定
・総務経理業務 編 ※近日公開予定
・CS、ES、顧客業務 編 ※近日公開予定
商業施設の施設・テナント管理業務に関する専門用語
施設・テナント管理の業務では、運営や管理に関する用語を中心に、それに伴って発生するコスト管理、テナントとの連携による販売促進、施設価値を高める戦略など、幅広い領域に関わる専門用語が使われます。
ここでは、特に重要と思われる専門用語をご紹介します。
館内巡回
館内巡回とは、デベロッパーの運営担当者が商業施設の館内を歩いて回り、テナントの売場状況や来館者の動向を観察・確認する業務を指す。これにより、施設全体や各テナントの現状を把握し、状況分析に役立てることができる。
また、ビルメンテナンスの観点では、設備や建物の不具合や、空調の設定状況などを確認し、セキュリティの観点では、不審な人物の存在や、各テナントの営業開始に支障がないかといった点も含め、施設全体の安全と正常運営を確認する役割も担う。
館内物流
館内物流とは、商業施設において、荷捌き場から各テナントまでの物流を、デベロッパーが特定の物流業者に一括で委託・管理する仕組みを指す。
一般的には、テナントへの納品を行う配送会社が荷捌き場で荷物を降ろし、その後、施設内のテナント区画まで別の物流業者が運ぶ流れとなっている。この運用により、荷捌き場の滞留時間を短縮するとともに、周辺の渋滞や違法駐車の防止、テナント従業員の負担軽減にもつながる。
管理シャッター
管理シャッターとは、営業時間が異なるエリア同士を区切るなど、運営管理上の目的で設置されるシャッターを指す。法令により一定の防火性能が求められる「防火シャッター」とは異なり、こちらは人の動線を制御することを主な役割とするため、軽量で扱いやすいタイプが多い。
素材や構造にも種類があり、透明パネルを使った横引きタイプのほか、パイプ状のパーツを連結したリングシャッターなど、施設の用途や見た目に合わせた形式が採用される。
防災センター
防災センターとは、電気・水道・空調などの設備や、防犯・防災機器を集中管理する拠点を指す。
商業施設においては、来館者やテナントの安全を守るため、24時間体制の監視が行われており、各テナントの閉館時の安全確認や、従業員の入退館管理などの役割も担っている。
保安管理費
保安管理費とは、商業施設の保安体制を維持するために、テナントが共益費の一環として負担する費用を指す。不特定多数の来館者が出入りする商業施設では、施設内の安心・安全を保ち、トラブルや犯罪の発生を未然に防ぐための管理体制が重要となる。
バックヤード
バックヤードとは、テナントが店舗の裏側で業務用に使用するスペースを指す。主に「バックルーム」とも呼ばれ、販売フロアとは区別されており、来店客の目には触れない部分である。
このエリアには、荷物の搬入や検品、商品在庫の保管を行う場所のほか、従業員の事務作業や休憩に使われるスペースなどが含まれる。
テナント
テナントとは、商業施設において、一定のスペースを賃借し、商品やサービスを提供する事業者や機関を指す。デベロッパーの事業コンセプトやマーケティング戦略に共感したうえで入居し、店舗運営を行うパートナー的な存在である。
出店にあたっては、商業施設の立地条件やターゲット商圏が自社の戦略に適していること、さらに賃料や保証金などの条件が事業計画と見合っており、採算が取れる見込みがあることが重要な判断材料となる。
こうした条件を満たす場合、小売・飲食・サービス業などに加え、銀行や医療機関、電力・ガス会社のサービス拠点、行政の出張所といった公的機関もテナントとして商業施設に出店するケースがある。
テナント管理
テナント管理とは、デベロッパーが商業施設の運営において行う、幅広い管理業務を指す。日常的な業務には、賃料・共益費・水道光熱費などの請求や入出金確認といった資金管理、クレーム対応、館内ルールの指導、テナント従業員とのコミュニケーションを図る店長会の運営などが含まれる。
また、テナント会費や共同販促費の管理、本部費の把握といった費用面の調整、バックヤードの環境管理などもテナント管理の一部として扱われる。
テナント会
テナント会とは、商業施設に出店している事業者によって構成される組織で、デベロッパーの方針に基づき結成される。商業施設としての統一感を維持することを目的に設けられたものであり、施設で唯一の出店者による団体となる。
主な活動には、共同販促の実施や従業員に向けた教育・福利厚生の取り組みなどがある。従来はテナント会が主体的に運営を担うケースが一般的だったが、近年では共同販促をデベロッパー側が主導して進める施設も増えている。
一方で、テナント会自体を解消する商業施設も見られるようになってきている。
テナント会費
テナント会費とは、テナント会の活動に必要な経費のうち、共同販促費と分けて取り扱われる運営費用を指す。通常、他の支払いと同様にテナントがデベロッパーに納入するタイミングでまとめて徴収されることが多いが、税務処理の観点から、専用口座での管理が求められる。
デベロッパーが事務局を兼ねる場合には、収支の透明性を保つためにも、帳簿の整理と財務管理を明確に行う必要がある。加えて、テナント会による会計監査だけでなく、デベロッパー側の監査体制による確認もしっかり行うことが求められる。
店長会
店長会とは、商業施設に出店しているテナントの店長と、施設を運営するデベロッパーとの間で定期的に行われる会議を指す。主に施設全体の運営方針や、売上目標・実績の共有、管理状況の報告などが話し合われる場となる。
また、販売促進施策や、駐車場を含む施設内設備の運用、防犯・防災に関する連携、トラブルの未然防止といった内容についても意見を交わし、テナントと運営側の円滑なコミュニケーションを図る機会とされている。
店舗経費
店舗経費とは、テナントが商業施設内で営業を行い、その運営を維持するために必要な費用全般を指す。具体的には、賃料・共益費・保証金にかかる利息などの施設管理に関する費用、共同販促費やテナント会費、水道光熱費といった販売に関する費用が含まれる。
さらに、人件費や本社・本部が負担する本部費など、企業運営にかかるコストも該当する。
本部費
本部費とは、テナントの店舗運営を支えるために本部側で発生する費用を、店舗の損益計算書に割り当てる形で処理する費用項目を指す。これは、店舗で直接発生する経費ではないが、営業活動を継続するうえで欠かせないコストとされている。
具体的には、本部の人件費や、オフィスにかかる地代・水道光熱費などが含まれ、それらの総額を複数の店舗に配分するのが一般的な運用である。
はみ出し陳列
はみ出し陳列とは、テナントが自身のリースラインを越えて、商品や什器、ケースなどを設置・陳列する行為を指す。商業施設内の景観維持や施設利用の公平性、さらには防災上の避難経路確保の観点から、多くの施設では営業ルール等でこのような行為を制限しているケースが一般的である。
商品バッティング
商品バッティングとは、商業施設に入居する複数の店舗が、同じ商品や似た商品を販売していることで、施設内での競合が発生する状態を指す。
このような商品重複は、特定の店舗だけが売上を伸ばし、他店舗が伸び悩む要因になったり、すべての店舗の売上に悪影響を及ぼしたりと、相乗効果が得られにくくなる。施設全体の運営バランスを保つため、必要に応じてデベロッパーが商品の調整を行うこともある。
SC共同販促
SC共同販促とは、商業施設全体として実施する販売促進活動を指す。一般的には、デベロッパーとテナント会が連携しながら企画・運営を行う形式がとられている。
ただし、テナントごとの意見を反映しすぎると、コンセプトが曖昧になり、全体としての統一感や効果が薄れる傾向があるため、近年では、テナント会から一定の裁量を委ねられたうえで、デベロッパーが中心となって企画を主導するケースが増えている。
共同販促費
共同販促費とは、商業施設において集客や施設のブランド強化を図るために実施される販促活動に対し、デベロッパーやテナントが共同で負担する費用を指す。
内容としては、イベント開催、広告、装飾などの広報・プロモーション施策に充てられ、テナント会が主体となって運用する場合もあれば、デベロッパー主導で進められる施設もある。
この場合、テナントからデベロッパーへ直接販促費が納入され、施設全体としての戦略に基づいた一体的な施策が展開される。
オープン販促費
オープン販促費とは、商業施設の開業に際して実施される告知やプロモーション活動にかかる費用であり、開業前から発生する特別な販促コストを指す。
施設全体で統一的に実施される広告や宣伝、オープニングイベントなどが対象となり、共同販促の一環として扱われるが、日常的な販促費用とは区別される。
SC接客マイスター
SC接客マイスターとは、商業施設で接客業務に携わるテナントスタッフのスキルとステータスの向上を目指して2015年に創設された資格を指す。筆記試験と実技試験の両方があり、知識と実践力の両面から評価される点が特徴である。
実技試験では、(一社)日本ショッピングセンター協会が主催する「SC接客ロールプレイングコンテスト」の支部大会での審査結果が合否判定に用いられる。
CS
CSとは、顧客が商品やサービスに対してどれだけ満足したかを示す概念である。これは、顧客が自身の期待やニーズに見合った選択ができたかどうかによって決まる評価であり、満足や不満という形で表れる。
「顧客第一主義」が企業側の対応方針を示すのに対し、CSはあくまでも顧客側の期待を出発点とした、「顧客起点」の考え方である。
ES
ESとは、従業員満足のことを指す。顧客満足(CS)を実現するためには、まず従業員が満足して働ける環境を整えることが欠かせないとされている。
CSを重視する企業が増えるなかで、単に顧客に対応する施策だけでなく、それを支える従業員の働きがいやモチベーションも重要視されるようになり、報酬面にとどまらず、働く場としての快適さや、意見が尊重される組織づくりがES向上の鍵となる。特に、流通・サービス業では、顧客と直接接する従業員の士気がサービス品質に直結するため、継続的なES向上が不可欠である。
マーチャンダイジングディベロッパー
マーチャンダイジングディベロッパーとは、テナントに対して商業施設のコンセプトやCI(コーポレート・アイデンティティ)を伝え、営業面での指導を行うことで、その方針を形にしていく能力を備えたデベロッパーを指す。
単に不動産管理や施設管理だけを行い、マーチャンダイジングに関わる企画・指導を担わないデベロッパーは、この呼称の対象とはならない。
SCマネージャー
SCマネージャーとは、商業施設の管理運営を担う責任者のことを指す。役職名は施設により異なるが、その知見や対応力が商業施設全体の業績や成長に大きな影響を与える役割を果たしている。
近年では、施設の進化や経営の複雑化に伴い、単なる管理運営だけでなく、施設全体の経営視点が求められるようになっている。
SCマネージャーの使命は、多様な関係者と協調しながらパートナーシップを築き、消費者の期待に応えつつ施設全体の経営を担うことで業績向上を実現することにある。そのためには専門的な知識や技術だけでなく、人間性や信頼感のある対応力が重要となる。
ベンチマーク
ベンチマークとは、もともと土地測量で用いられていた基準点を指す言葉で、のちに米国企業の経営改善手法として広く使われるようになった。業界や業種を問わず、優れた取り組みや成果を上げている企業を比較対象とし、自社の改善や改革の指針とする手法を意味する。
商業施設の分野では、立地や交通アクセス、延床面積、MDの方向性、テナント構成といった要素から参考となる他施設をベンチマークとして設定し、自施設の戦略や改善に役立てることが重要である。
バリューアップ
バリューアップとは、大規模な改修や用途変更などを通じて、不動産の資産価値を高めることを指す。商業施設におけるバリューアップの手法としては、主に3つの方向性がある。
1つ目は、賃料水準や契約条件の見直し、テナントの入れ替え・リニューアルなどによって収益性を高める方法。2つ目は、施設の維持管理費を抑えることで、運営にかかるコストを削減し、純収益を向上させる方法。3つ目は、リスクプレミアム(リスクに見合う上乗せリターン)の圧縮によりキャップレート(還元利回り)を引き下げ、不動産価値の評価を高める手法である。
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まとめ
本記事では、施設・テナント管理の業務に関する専門用語をまとめてご紹介しました。
専門用語の理解は業務を円滑に進めるための基本です。今回ご紹介した用語は、管理・運営に関するもの中心に、それに伴って発生するコスト管理、テナントとの連携による販売促進など、日々の業務で使用されるものが多いです。
特に、初めて業務を担当する方にとって、これらの知識は業務の基盤となり、理解を深め基礎を固めることが、業務の成功と効率化に繋がります。