社長の一言集

第221号「人は育てるものではなく、自ら育つもの。」

2024/11/29

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「人は育てるものではなく、自ら育つもの。」

                2024年221号
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30年ほど前、面白いビジネスモデルで業績を伸ばし始めた社長を囲んだ勉強会に参加しました。
倒産企業の処分品、キズ物、サンプル、廃盤品など、訳ありの品を大量に激安で仕入れ、狭い店内に段ボール箱で積み上げる「ジャングル陳列」「立体陳列」という、まるで迷路の中で宝探しをするような売り方をしているお店でした。
バカでかい手書きのPOPを並べ、深夜まで営業している「泥棒市場」という名前のお店でした。

その後、この「泥棒市場」は小売り向けの卸問屋を経て、東京都府中市に「ドン・キホーテ」という名前の1号店をオープンしました。
創業者の安田隆夫氏は従業員に「見にくく、取りにくく、買いにくい店を作れ」と今までの小売業では考えられない指示を出していました。
しかし、ドン・キホーテ名物の「圧縮陳列」や「POP洪水」などを従業員に教えても、全く理解してもらえず、かなり悩んだそうです。
最終的には教えるのをやめて、全て従業員に自分でやらせることにしました。
それも一部ではなく『全部を任せる』という大胆な決断をしました。
従業員ごとに担当売り場を決め、仕入れから陳列、値付け、販売まで全て「好きにやれ!」と丸投げしたのです。

さらに、従業員ごとに専用の預金通帳を作り、それで商売をさせる「個人商店主システム」という権限委譲システムをつくり上げました。
しかし、社内全体での情報共有が不十分で、バッタ商品の卸しが他社に販売した商品だと知らずに、それを他社から再仕入れする売り場の担当もいたそうです。
それでも安田隆夫氏は何一つ口出ししませんでした。
「社員を信頼し、仕事を任せれば、みんな一生懸命になります。
人は『育てるもの』ではなく『自ら育つもの』という考え方が前提になければ、権限委譲することなどできません。
一番重要なことは『信じて頼む』ということ」だと安田隆夫氏は語っています。

その後、ドン・キホーテの持ち株会社の株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスはグループ店舗の拡大と同時に、長崎屋、ユニーのM&A戦略等を重ね、驚異的な増収増益を続けています。
私がお会いした頃は年商200億円でしたが、今年は2兆円を突破し、約100倍の成長を遂げています。

この最長連続増収増益の理由について掲載した月刊誌がありましたので、ご参考に。

『Wedge』2024年11月号 株式会社ウェッジ発行
『商いのレッスン第15回』笹井清範氏著より抜粋

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最長連続増収増益の理由

日本には約4000社の上場企業があるが、「ドン・キホーテ」を展開する
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは最長34期連続で増収増益を果たしている。
同社創業者の安田隆夫氏は「ドンキの最大の強みは人材であり、その根本には徹底した権限移譲がある」からだという。
「人は育てるものではなく、自ら育つもの。『育てる』のではなく、信じて頼む、つまり『信頼する』こと。
自ら育つ自己育成の場を整備し、機会とチャンスを与え続ける。これが当社の人材開発における基本姿勢です」
信頼関係は双方の合意に基づく約束によって成り立つ。
同社の全社員が守るべき行動規範をまとめた企業理念集『源流』に掲載された「社員心得・行動規範十箇条」がそれにあたる。

一、逆境から立ち上がる不屈の闘志と、タダでは起きないしたたかさを持て
二、誰よりも店、商品、顧客への熱き想いと情熱を注げ
三、現場で知恵と感性とひらめきを研ぎ澄ませ
四、単なる根性ではなく、本番で勝つ情念とはらわた力を磨け
五、いかなる時も「主語の転換」を心がけ、相手の立場で発想せよ
六、現場リーダーは、常に自分の代わりとなる人財を育てよ
七、役職や上下の別なく、個人の多様性を尊重し認め合え
八、仕事を「ワーク」ではなく「ゲーム」として楽しめ
九、できない理由をあげるのではなく、「どうしたらできるか」をとことん考えよ
十、相並ばない二択を安易に受け入れず、両立させる知恵を絞れ

これらの根底には信頼がある。「あらゆる組織が『人が宝』という。
ところが行動で示している組織はほとんどない」とはドラッカーの指摘である。

あなたの会社はいかがだろうか。

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昔、松下幸之助翁の愛弟子の木野先生にお聞きした、生前の松下幸之助翁が「21世紀はこんな時代になる」というメッセージです。

21世紀は
■小が大を制する時代 ■持っていることが困る時代 ■人の価値を活かす時代

経営の神様は、確かに未来の風を読んでいたようです。

株式会社リゾーム
代表取締役 中山博光