社長の一言集

第98号 「ミネルバの梟(ふくろう)は黄昏に飛び立つ」

2014/07/31
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 「ミネルバの梟(ふくろう)は黄昏に飛び立つ」
                                                       2014年98号
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十数年程前までは、カメラは写真フィルムをセットして撮影し、撮影後は
フィルムをカメラ屋へ持っていき、数日後に写真を受け取っていました。
しかし、デジタルカメラが普及し始めて、写真フィルムはほとんど不要になり、
プリンターがあれば写真は自宅でも出力できます。
更に、最近はデジタルカメラでなくてもスマートフォンで通常の写真レベルで
あれば十分事足りる時代になりました。

実際、写真フィルムの需要は、2000年がピークで、次第に縮小し始め、10年程
で一気に減少してしまいました。
2000年に約2700億円以上あった富士フイルム(株)の写真フィルム事業の売上は、
2007年に約750億と約4分の1になってしまいました。※現在は10分の1以下。
写真フィルム事業としては危機的な業績です。
しかしその2007年、富士フイルム(株)は、売上高2兆8468億円、営業利益2073
億円という、史上最高益の数字を叩き出したのです。

2000年に富士フイルム社長に就任した古森重隆氏は、本業消失に強い危機感を
持ち、新たな手を打ち始めていました。
一つは、写真関連事業のリストラを含む大胆な構造改革。
もう一つは、今後成長が見込めると判断したヘルスケア分野、高機能材料分野、
ドキュメント分野等へのM&Aを含めた大型投資です。
中でも、業界を驚かせたのは、写真の色あせを防ぐ『抗酸化技術』を活かした
ヘルスケア分野の化粧品「アスタリフト」を発売した事です。
2007年に松田聖子や中島みゆきをCMに起用したヒット商品です。

長年のライバルであった同業のコダック社は、2012年に米国連邦破産法11条の
適用を申請しました。完全に時代の変化の見誤りと変化の甘さです。

大きな改革と挑戦を行った富士フイルム(株)が2006年春に開所した富士フイル
ム先進研究所には、二つのシンボルがあります。
ミネルバという女神と、梟(ふくろう)の像です。

哲学者ヘーゲルは『法の哲学』の序文で、
『ミネルバの梟(ふくろう)は黄昏に飛び立つ』という言葉を記しています。

ローマ神話の女神ミネルバは、技術や戦の神であり、知性の擬人化と見なされ
ていました。梟はこの女神の聖鳥です。
一つの文明、一つの時代が終わる黄昏の時に、ミネルバは梟を飛ばしました。
それまでの時代がどういう世界であったのか、どうして終わってしまったのか、
梟の大きな目で見させて総括させたのです。
そして、その時代はこういう時代だったから、次の時代はこういうふうに備え
ようと、梟の総括を活かしていたのです。

富士フイルムホールディングス株式会社
代表取締役会長CEO 古森 重隆氏の言葉
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 経営判断を下す前に、自社に何が起きているのか現状をよく見て考えなければ
 ならない。
 我々の場合でいえば、悔しいことだが写真フィルムの市場はほとんどなくなって
 しまった。
 そういう現状を認識するのは、非常に勇気の要ることでもある。
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『ミネルバの梟』は今の時代だからこそ、深く正に的を得たシンボルだと思います。

実は、もう一人『ミネルバの梟』をシンボルマークにした名経営者が存在します。
日本警備保障(現セコム(株))を創業したセコム取締役最高顧問の飯田亮氏です。 
ガードマンで夜の警備をするから梟がシンボルマークだと思われがちですが、森に
あって知恵の神ミネルバを守る鳥ということで、梟を選んだそうです。
1962年の頃のお話なので、大変な先見性ですね。
友人と二人、知り合いの会社の間借りから始めた警備会社が、現在はセキュリティ、
防災、メディカル、保険、情報、不動産等、激変する時代のニーズを的確にとらえ、
連結売上で8222億円、経常利益1266億円近い企業に成長されています。

チャールズ・ダーウィンの言葉
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  最も強い者が生き残るのではなく、 最も賢い者が生き延びるでもない。
  唯一生き残るのは、変化できる者である。
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新しい未知なる時代に、どのような変化がこれから求められるのでしょうか?
梟の総括と、新しい時代へ向けた戦略が必要です。

                       株式会社リゾーム
                        代表取締役 中山博光

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