社長の一言集

第82号 年年歳歳花相似 歳歳年年人不同

2013/03/29
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 年年歳歳花相似 歳歳年年人不同
                                                       2013年82号
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「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」という漢詩は、唐の詩人
劉希夷(りゅうきい)の20代の時の作とされています。

私は、桜の季節になるとこの漢詩を思い出します。
私が20代の時に、一年間アシスタントとしてお世話になった「青木デザイン」の
社長だった青木さんが、口癖のようにこの漢詩を語っていたからです。

青木さんは岡山県の工業高校卒業後、山陽電鉄に入社したのですが、数年で退職し、
1975年に大阪の天満で、デザイン会社「青木デザイン」を起業しました。
その2年後の4月、桜の時期に私は、青木デザインの5人目のスタッフとして
デザイン見習い兼雑用担当で採用して頂きました。
(※私が現在あるのは、本当に青木さんのお蔭です。)
当時は朝8時から翌朝の3時までの19時間労働という過激な労働環境が続きました。
しかも、当日受けた仕事は、必ず翌日の朝に納品という、考えられない短納期の
仕事ばかりでした。
孫請けのため、価格は安く叩かれ、支払いも遅く、経営は常に苦しかったようです。
毎日ほとんど家に帰ることも出来ず、全員が事務所で雑魚寝状態です。

唯一の楽しみは、毎晩、「剣菱」というお酒を皆で飲みながら仕事の合間に聞く
青木さんの漫画のような体験談や、面白い人生論です。
そんな話の中で時々、「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」の講釈を
語るのです。

「毎年、花は変わらぬ姿で咲くが、それを見ている人も世の中も、年ごとに
  移り移り変わる。諸行無常の世界に僕たちは生きているんだよ、中山君。」

ずいぶん聞かされましたから、今でもその声がしっかり耳に残っています。

その後、取引先の倒産や中心社員の退職等、様々な苦難が青木デザインに
続きます。
1年後、私は流通業での就職を目指し青木デザインを退職しました。
過酷だと思っていた19時間労働のお蔭で、3年かかる技術を1年で習得することが
出来たのです。

そして数年後に、青木デザインの倒産を知りました。
青木さんは田舎の親の財産までつぎ込んで、借金だけが残り大変だったようです。

しかし、10年後の1990年に『ナニワ金融道』を引き下げて、青木さんは「青木雄二」
として、鮮烈な漫画家デビューを果たしました。
更に、『ナニワ金融道』はSMAPの中居君を起用しテレビ化され、青木さんは大きな
成功の花を咲かせました。
大ブレイクした青木雄二さんは、50歳を過ぎて奥さんと巡り合い、家庭を持ち、
「一生暮らせるだけの金は稼いだ、残りの人生は遊んで暮らす。」と宣言しました。

しかし、タバコと酒をこよなく愛した青木さん。2003年9月に肺癌のため58歳の
若さで突然、他界してしまいました。

「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」を地で生き抜いた人でした。

人生はまさに、山あり谷あり、禍福はあざなえる縄の如しです。
しかし、全てが必然だと私は思います。
青木さんの、過去の大きな挫折、失望、苦難の中で育まれた生き様、諸行無常観が
『ナニワ金融道』にユーモアと哀愁を盛り込み、人々の共感を得たのだと思います。

松下幸之助翁の書籍『人間としての成功』の中で、諸行無常の解釈があります。
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その昔、お釈迦さまは、"諸行無常"ということを説かれました。
この教えは、一般には"世ははかないものだ"という意に解釈されているようです。
そこには深い意味はあるとは思いますが、そのような解釈をすることによって、
現世を否定するようになり、生きるはり合いをなくしてしまうようであれば、
これはお互いの益にならないでしょう。私はそのように解釈するよりもむしろ、
"諸行"とは"万物"ということであり、"無常"とは"流転"というようにも
考えられますから、諸行無常とは、すなわち万物流転であり、生成発展という
ことであると解釈したらどうかと思うのです。
いいかえますとお釈迦さまは、日に新たでなければならないぞ、ということを
教えられたのだということです。
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さすが、松下幸之助翁です。
人はどのような条件下であっても、その人の考え方・解釈によって、まったく違った
人生を創れるのですね。

東京の桜は、今年は4月を待たずに散りはじめています。

      「散る桜、残る桜も、散る桜」
                       良寛 辞世の句

                      
                                                 株式会社リゾーム
                             代表取締役 中山博光

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