社長の一言集
第230号「誠実にして、はじめて禍を福に変えることができる。術策は役に立たない」
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「誠実にして、はじめて禍を福に変えることができる。術策は役に立たない」
2025年230号
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今年8月で、第二次世界大戦終結から80年を迎えます。
総務省の人口動態調査によると、日本の総人口に占める戦後生まれの世代は9割に迫っています。
一方、戦前および戦中に生まれた方々は、全体のわずか1割にまで減少しました。
悲惨な原爆や戦争体験をはじめ、大苦難の中で日本の未来を信じ、身を挺して取り組んでこられた方々の存在も後世に伝え残すべき史実です。
瀧澤 中(たきざわ あたる)著『ビジネスマンのための歴史失敗学講座』(2019年 致知出版社 刊)より
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[2] 先を見据える
◆ 戦争末期なぜ「海軍兵学校」に四〇〇〇人を超える若者を迎えたのか
負けることが確実な情勢でやるべきことは何か。
その一つは、「温存」です。
昭和二〇年(一九四五)の段階で、日本軍首脳部のほとんどは敗戦を覚悟しています。
そしてその一部の中で、こんな動きがありました。
海軍兵学校の大増員です。
海軍兵学校は海軍の将校になるための学校ですから、戦争末期で人員が足りなくて増員した、という側面もありますが、もう一つ、「戦後に日本を復興するための人材を温存する」という隠れたもくろみもあったのです。
(中略)
兵学校の予科として七八期生が昭和二〇年四月に入校しますが、その数はなんと、四〇四八名にのぼりました。
◆戦後を支える貴重な人材が確保された
当時兵学校の副校長であった大西新蔵(海軍中将)は戦後、「実は海軍兵学校は、この時(七八期生が入校した頃)すでに、暗黙の間に"国立大学"に移行していたものである。
将来日本社会の上層構造たるべき優秀有為の士をして、徴用その他で歳月を徒費させてはならない。
国立大学に代って教育を担当しようというものである」(海軍兵学校七八期会報「針尾」第一〇号)
大西新蔵中将も、それが誰の発案であったのか定かではない、としていますが、予算のかかる人員大増員は一部署の裁量を超えています。
昭和十七年から十九年まで校長を務めた井上成美(しげよし:校長当時中将)も、教育期間を減らしてなるべく早く戦地に送り込もうという中央の方針に反対します。
井上は敗戦を見越して戦後の日本を背負って立つ人材育成も考え、「海軍兵学校は"ジェントルマン"をつくる場所だ。短期間でできるものか」と言って期間の圧縮に猛反対したのです。そういうことを井上たちはめざし、兵学校での教育も英語を禁止せず、軍事的なものではなく大学の教養課程に相当するような内容をやれ、と指示します。
海兵七八期の授業内容を見ると軍事系のものはほとんどなく、英語や国語、漢文、数学、物理、歴史、地理など一般科目がほとんど。
しかも、教官たちは「鍛えちゃ(腕力で従わせては)いかん。生徒は可愛がれ」と指示を受けていたそうです。
なので、いわゆる軍隊内の陰湿ないじめはほとんどなかったと、七八期生の故・今井喜与氏から伺いました。
七八期は「予科」だったので、年齢でいうと一四、五歳。当時は工場への動員や食料増産のための畑仕事なので、本格的に勉強する時間がとれませんでした。
昭和一九年に起案された海軍の文章にも、勤労動員などで「学力亦(また)低下しつつあり」と、人材育成への危惧が述べられています。(「昭和一九年及昭和二〇年に於いて採用すべき海軍兵学校、海軍機関学校及び海軍経理学校生徒の採用員数に関する件仰裁」)
戦いに負けることがわかり始めたとき、上層部の一部で"そのあと(戦後)のために"人材を確保し、教育することが考えられたようです。実際に七八期生からは多くの企業経営者、銀行家、大学教授、法律家が輩出されました。
市井にあって教育者として尽くした者、家業を繫栄させた者など、肩書とは関係なく活躍した人たちも少なくありませんでした。
まさに、井上成美たちが考えたとおり、日本の戦後を支える人材が確保されたのです。
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井上成美中将は、米英との開戦および三国同盟に最後まで反対した人物です。
また、終戦の約1年前に「日本の敗戦は避けがたいと判断し、内密に終戦の研究(終戦工作)を開始するため、大臣と軍令部総長には了承していただきたい」と申し出た人物でもあります。
物事を的確に見極め、決して妥協せず、戦後も己の信念を貫いた彼は、極貧の中でも生涯にわたり誠実なリーダーであり続けました。
現在、世界は武力による戦争だけでなく、経済・関税、金融、IT・AIなど多岐にわたる熾烈な争いが展開されています。
また、食糧、水、エネルギーなどの生産・供給バランスの不安定さ、予測を超える規模の自然災害などにより、世界各地で新たな争いの火種が発生し、拡大することが予測されます。
今こそ、優れたリーダーの登場が求められています。
困難な波が押し寄せる中で、適切な判断を下し、全力で危機を乗り越えるリーダーシップこそが必要です。
状況を冷静に捉え、果敢に危機に対応できるリーダーがいなければ、国家や企業、組織はいずれも悲惨な結果に陥ることになります。
同じ危機に直面しても、リーダーの判断力と人間力の差により、その影響を最小限に抑えられるか、あるいは壊滅してしまうかが分かれます。
そして、その後の検証や、どのように立ち直るべきかまでの打ち手こそが、真のリーダーの責任なのです。
結果を隠ぺいする、逃げる、責任逃れをするリーダーでは、危機を乗り切ることはできません。
「二宮尊徳翁」の教えに、次のような言葉があります。
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「誠実にして、はじめて禍を福に変えることができる。術策は役に立たない」
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2025年という年は、政治・経済において歴史的大転換期となりそうです。
禍福に一喜一憂することなく、常に備えを怠らず、誠意をもって取り組み、未来への布石を残せたらと願います。
株式会社リゾーム
代表取締役 中山博光