社長の一言集
第224号「汗のなかから知恵を出せ」
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「汗のなかから知恵を出せ」
2025年224号
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大きな変化を予感させる、人類にとって節目の時代がやってきました。
政治、社会、人口、資源、情報等のあらゆる分野で大転換が始まっています。
今までの主流、常識を覆すものもあれば、数十年前から予測されていたことが、いよいよ現実の事として影響を及ぼしはじめたものもあります。
そうした中、経験したことのない重要な問題について、「何が正しいか、正しくないか」についての議論や、「だから、どうべきか」という決断を求められる時があります。
正に、正念場です。
議論を重ね尽くしても答えが見えない時、最後は経営者の勘とひらめきで決断しなければいけません。
答えは神のみぞ知る。数年先、数十年後の結果が答えになります。
更に、同じ決断でも、誰が行動したかによって、結果がまったく異なることもあります。
時には、正しいか、正しくないかとは別の答えが必要だった、ということもあります。
そうした経営の決断と試練の積み重ねについて、先人の言葉に大きな気づきをいただきます。
成功の法則 松下幸之助はなぜ成功したのか
江口克彦氏著 PHP文庫 2000年 刊より
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汗のなかから知恵を出せ
塩の辛さは、
なめてみなければわからない
能力は六十点でもいい。しかし誰にも負けない熱意がなければいけない。
そして、努力をすることである。昨今の一部の風潮にまどわされてはいけない。
濡れ手に粟(あわ)というようなボロ儲け、宝くじ的確率に己の人生を賭けてはいけない。
こつこつ努力を積み重ねていくことが基本であり、大事なことである。汗を流す。
迷うことなく、それを先行させることである。
以前、どこかの会社の社長が、知恵ある者は知恵を出せ、知恵無き者は汗を出せ、それも出来ない者は去れ、と社員の人たちに言っていたことがある。
松下はその言葉を聞くと、あかんな、つぶれるな、と言った。
「ほんとうは、まず汗を出せ、汗のなかから知恵を出せ、それができない者は去れ、と、こう言わんといかんのや。
知恵があっても、まず汗を出しなさい。ほんとうの知恵はその汗のなかから生まれてくるものですよ、ということやな」
その会社は数年すると、やはりつぶれてしまった。
もともと知恵のある人でも、その知恵がそのまま世の中で通用するかといえば、実際には難しい。
学者や専門家の意見を聞いていると、私たちはどことなく机上の空論だと感じることが多い。
その知恵は社会の波で揉まれなければいけない。それが現実の姿である。
だから、まず汗を流し努力することを勧めなければいけないのに、最初に知恵を出せと言ってしまっては、社員は机の前に座って、とにかく知恵を出そうとする。
当然のことだ。
しかし、そんな知恵は、社会の波に揉まれていないから、ほんものではない。
「塩の辛さ、砂糖の甘さというものは、何十回、何百回言葉で教えられても、ほんとうにはわからんやろ。なめてみて、初めてわかるものや」と松下はよく言っていた。
比較的うまくいっている会社の社長に会ったとき、話してもそう能力のすぐれた人だとは思わないことがある。
しかし、その会社の経営はとてもうまくいっている。
それに反して、見るからに頭のいい人で、言うことも筋が通っているなと感じる人が社長になっているのに、あまりうまくいっていない会社もたくさんある。
松下は、長く商売をする間に、自分の取引先でそのような例をたくさん見てきた。
そしてある講演で、次のように話したことがある。
「うまくいく会社の社長は、そう頭のいいことはなくても、どこかで経営のコツをつかんでいます。一見うかがいしれないものを内に持っていると思います。その持っているものは何かといいますと、塩の味を知っているということです。塩の味はどんなものかという講義は受けておらないけれど、日々味わっているから、塩の味というものはよくわかっている。そういう人だろうと思います」
汗を流し、涙を流し、努力に努力を重ねるうちに、ほんものの知恵が湧いてくる。
身についてくる。努力をし、汗のなかから生まれた知恵はほんものである。
ほんものの知恵だから、人を説得することができる。動かすことができる。
感動させることができる。
だから迷わずに、とにかく努力をすることである。
「きみ、奥義を極めた先生から三年間水泳に関する講義を受けたとしても、すぐに泳ぐことはできないやろ。やはり泳ぐには、水につかって、水を飲んで苦しむという過程を経ることが必要やな。そのあとにようやく講義が役に立ってくる。そういうもんやで」
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一方では、ChatGPTやDeepSeek等のAIの進化が止まりません。
それらのAIは推論能力が向上し、高度な情報提供や問題解決コメントの質をどんどん高めています。
まさに「奥義を極めた先生」の、かなりの部分をAIが担う時代の到来です。
松下幸之助翁のお言葉を参考にさせてもらうと、経営における問題解決においては、AIは私たちをサポートする存在であり、最終的な判断と行動は私たち自身が行うものです。
経営のコツ、勘、ひらめきによる最終判断は、何度も水を飲んで苦しむことを経験した、「塩の味」を知っている経営者の判断はAIにはできません。又、その判断で得られたものは、結果だけではなく、その結果についての大きな学び、教訓があります。
今後、更に多くの人がAIを利用する社会となりますが、「頭のいい人」と「ほんものの知恵を持った人」で、AIの活かし方、人類への貢献も大きく変わりそうです。
株式会社リゾーム
代表取締役 中山博光