社長の一言集

第215号「本質的には何が重要なのか、根本を突き詰めて考える」

2024/05/30

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「本質的には何が重要なのか、根本を突き詰めて考える」

                2024年215号
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今年は5月から各地で夏日が続いています。
1月1日の令和6年能登半島地震の発生から、気がつけば年半ば、6月を迎えようとしています。
地震で被災された皆様、今も復興に尽力されている皆様に、心よりお見舞いと、一日も早い復興をお祈り申し上げます。

7月3日には、一万円札、五千円札、千円札の3種類の紙幣が同時に改定され、私たちの日常に登場します。
新一万円札の肖像画は、『論語と算盤』でおなじみの、渋沢栄一氏。
新五千円は、「女子英学塾(現・津田塾大学)」の創設者、津田梅子氏。
新千円札は「近代日本医学の父」とも称される北里柴三郎氏です。
急激に広がる経済格差の時代に、渋沢栄一氏が新紙幣として登場してくることについて、深遠さと、必然性を感じます。
渋沢栄一は資本主義の重要性を認識しつつも、その運営には倫理と社会的責任が必要であると主張しました。
又、人間性や教養を磨き、幅広い視野を持つことの重要性、環境や社会の持続可能性を確保するための努力を怠らないよう促しています。

今までの普段の生活が、決して当たり前ではない、特に、震災、水害、経済破綻は、いつ起きてもおかしくない。ということは、過去の経験が物語っています。
さらに、その出来事について、検証・反省がどれだけ実施され、改善されてきたのか、更なる備えについて知ることも大切なことだと思います。

東日本大震災について残した、2011年の社長の一言です。
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「事後の百策より事前の一策」を今回の東日本大震災では痛感させられました。
天災、人災、国災という「複合連鎖災害」です。福島原発の補助電源が津波の影響を受けないように建設時に施していたら、今の日本の厳しい状況(世界の原発問題含め)は激変していたはずです。安全、安心より経済性・コストを優先した結果です。正に魔がさした判断です。「備えあれば憂いなし」ではなく、「憂いなければ備えなし」の泥縄状態をつくってしまいました。
私が訪れた仙台の海岸地区は見渡す限り瓦礫の平原で想像を絶する惨状でした。
震災の40日後でも、足がすくみ、心も凍りつく思いがしました。憂いを忘れた奢りの経営が招いた結果といえます。

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私は当時、補助電源施設の津波対策について、東電幹部層が収益面を優先し十分な対応をしなかったという理解で、上記のコメントをしたのですが、実はまったく別の背景があったようです。改めて、情報を追加させて頂きます。

『新 失敗学 正解をつくる技術』 畑村洋太郎氏著 2022年 講談社
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結論から言うと、米国から技術を日本に持ち込む際、知識が中途半端に伝わったことによる悲劇でした。私は政府事故調の活動を通じて、福島第一原発だけではなく日本中の原発が非常用の発電機を地下に置いていたことを知りました。その理由は政府事故調の期間ではわからなかったのですが、その後、さらに調べている中で、米国から原発の技術が持ち込まれたときに、本質的な議論もなしに、形だけの知識が伝わったものであることを、あるひとから教わりました。
米国はなぜ、地下に非常用発電機を設置していたのか。それは米国でいちばんの脅威が、「津波」ではなく「竜巻」だったからです。(中略)

事故調では、なぜそのようなことをしたのか調べましたが、当時の経緯について触れた資料はまったく残されていませんでした。資料が残されていない以上、当時技術を導入した人たちが、どこまで考えていたかは詳細にはわかりません。しかし、「先進国の米国で行われているのだから間違いないだろう」という意識が働き、思考停止していたのではなかったかと推測しています。

私はここにも正解を持ってくればいい、正解を持ってきてそのままあてはめればいいという優等生型の思考の限界を感じます。「正解」がはっきりしている場合は、そのまま正解を頭にインプットすれば問題はありませんし、非常に効率的です。しかし「正解」がわからない場合、「正解」自体が間違っている場合も、実際の世界には数多くあるのです。

こうしたときには、本質的には何が重要なのか、根本を突き詰めて考える必要があります。
非常用電源を地中に入れておけば「正解」という思考は、本質的に何が重要なのかについて考えた形跡はまったくないのです。

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今後、「正解」を期待する先がAIに変わり始めます。
質問したら、AIが「回答」を出し、それが「たぶん正解」という思考パターンが蔓延してくことは十分考えられます。

これは、AIが悪いということではなく、質問者の問題意識、本質を見極める力がないと、きちんとAIを使いこなせない、思考を含めAI依存型人間になってしまうという私の危惧です。

渋沢栄一氏の残された言葉。
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多く聞き、多く見て、その中より最も善きものを選び、これに従うて行作せねばならぬのは中人の常なり。
されどあまり見聞のみを博くしても、その人に取捨の見識がなければ、選択の見当がつかなくなって迷うようになるものだ。

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本質的に何が重要なのか、根本を突き詰めて考えることをAIに委ねることは無理で、それこそが人間の役割です。と...、言いたい。「NVIDIA祭り」どころではありません。

株式会社リゾーム
代表取締役 中山博光