社長の一言集

第193号「松下幸之助翁とウォークマン」

2022/07/28

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「 松下幸之助翁とウォークマン 」

                2022年193号
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人物観察法として論語の「視・観・察」という考え方があります。
 孔子曰く
 一、その人の行為をよく注意して視(み)る。
 二、その行為の動機となる原因を観(み)る。
 三、その人がどんな所に安らぎ・目的を求めているかを察(み)る。

 「その三つのレベルで掘り下げてみると、その人の本性を見抜く事が出来る。
 どうして隠せようか」と。

例えば
視るとは「ある若者が一生懸命畑仕事をしている」
観るとは「その理由はお金を一円でも多く稼ぐことである」
察るとは「病気の母の薬代を稼ぎ、元気になってもらう目的のためである」
ここまで掘り下げることによって、その若者の本性が分かるのですね。

これを企業の価値に応用してみました。
 一、その企業がどのような商品を誰に販売しているのかを視(み)る。
 二、その商品はどのような時代背景、技術の変化を捉えているのかを観(み)る。
 三、その企業はお客様にどのようなメリット、満足を提供しようとしているのかを察(み)る。

「視」からつくられた商品は、単発で終わり、競合他社も多く、常にレッドオーシャンで戦わなければいけません。「察」からつくられた商品は、独自商品で常に進化し、ブルーオーシャンで、戦わない経営ができます。
これから、企業の存在価値、モノづくりの根幹は、「察」で磨き上げなければいけません。

谷井昭雄氏 『松下幸之助 ものづくりの哲学 どんな時にも、道はある』PHP研究所より
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(前略) 記憶に新しいエピソードがあります。数年前、私がPHP研究所の取材を受け、創業者との思い出を『松下幸之助塾(現・衆知)』という経営者向け雑誌に掲載してもらったとき、かつて録音機事業部長をしていた後輩に、その雑誌を贈呈したことがあります。後日、彼からお礼の手紙がきたのですが、そこには驚くべきことが書いてありました。

以下は、彼の手紙の一部です。

「私の思い出としては、ソニーがウォークマンを出す前に、創業者から『カセットテープのケースサイズのテープレコーダーを作れないか』と言われて、モーターやメカニズムがありますので難しいですと答えたとき、『いまここにRCA(アメリカの電器メーカー)が来て、机の上に札束を積んで、君にやってくれと言ったら、君はノーと言うか』と言われました」

創業者は、音楽の世界を変えたとも言われるヒット商品「ウォークマン」が発売される前に、同じような商品の構想を持たれ、録音機事業部長に開発を指示していたのです。残念ながら、ウォークマンはソニーが先に発売しましたが、あの小サイズのカセットテープレコーダーがまだ世に出ていない頃、創業者はすでに、そのアイデアを持っていたのです。

私はこの手紙を見たとき、創業者のものづくりへの情熱は、これほどまでに深いものであったのかと、感銘を受けました。商品への関心が深いからこそ、すでに相談役になっていたにもかかわらず、事業部長にあのような話を持ちかけたのです。商品のことを常に気にかけていなければ、ウォークマンのような画期的なアイデアなんて到底思いつくはずがありません。これは想像ですが、おそらく自ら電器店に足を運んだり、部下からのさまざまな報告を耳にしながら、何か新しいものができないかと常に模索していたのでしょう。決して単なる思いつきではなかったのです。
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きっと、松下幸之助翁は「カセットテープのケースサイズのテープレコーダー」の実現により感動し、喜んでいただけるお客様の顔が見えていたのですね。

しかし、未知なるものに「難しい」・「前例がない」・「非常識」と、試みすらしない組織からは、アイデアはあっても今までにない革新的な商品・サービスは生み出すことが出来ません。

それを実現することが、コアコンピタンス経営なのです。


井深大氏の著書『わが友本田宗一郎』(文春文庫)の本田氏の言葉より
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大体、僕の人生は、いわゆる見たり、聞いたり、試したりで、それを統合してこうあるべきだということで進んできた。
もし、わからないようなことがあって、そのために本を読むんだったら、そのヒマに人に聞くことにしている。 (中略)

さっきもいった通り、人生は見たり、聞いたり、試したりの三つの知恵でまとまっているが、その中で一番大切なのは試したりであると僕は思う。
ところが世の中の技術屋というもの、見たり、聞いたりが多くて、試したりがほとんどない。
僕は見たり、聞いたりするが、それ以上に試すことをやっている。
その代わり、失敗も多い。ありふれたことだけど、失敗と成功はうらはらになっている。
みんな失敗をいとうもんだから、成功のチャンスも少ない。
本田が伸びた、伸びたって、最近みんな不思議がるが、ネタを明かせばこれ以外にない。
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チャンスは色々な形に化けて、猛スピードで目の前を通過していきます。
そのチャンスが本物かどうか、出来るか出来ないかは、まず自分で試してみることでしか分かりません。

「そんな夢のような」と、まわりに失笑されても、失敗して、傷ついて、損をしても、ひたむきに挑戦を繰り返すことができなければ世の中になかった革新的商品は生み出せません。
そして、『あ、これが自分たちに与えられた使命だ!』と、全身で確信できたときに、チャンスの扉が開きます。

株式会社リゾーム
代表取締役 中山博光