社長の一言集

第188号「運を無駄遣いする人、味方につける人」

2022/02/28

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

運を無駄遣いする人、味方につける人

                2022年188号
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

今月12日に藤井聡太九段が王将を奪取し、五冠となりました。19歳の青年が将棋界の記録を次々に塗り替えています。これまでの五冠は、故・大山康晴十五世名人、中原十六世名人74歳)、羽生善治九段の3人で、いずれもその時代を代表する大棋士ばかりです。

藤井聡太氏が二冠の時に対局した谷川浩二九段の感想です

「とにかくよく考えるなと思いました。考えることが好きで、将棋が好き。未知の局面に入った時に、若くて手が見えるので、どんどん先が読めるんだと思うんですね。それが楽しいんだろうな、と......。私も若い頃は、気づいたら30分、1時間たっていたということもあったのですが、藤井二冠はいま、まさにそういう状態なんじゃないかと思います」

「水面下で読むことは、必ずしもその対局で役立つとは限らないんです。けれども、そういうことの積み重ねが、後に財産になって、実力を高めることにつながっているのだと思います」


「一日一話読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書」 致知出版社より
<運を無駄遣いする人、味方につける人> 谷川浩司 日本将棋連盟棋士九段
-------------------------------------------------------------------------------------------

私は一人ひとりが持っている運の量っていうのは平等だと思うんです。そして、運が悪い人というのは、つまらないところで使っているんじゃないのかと思うんです。

将棋の棋士を見ていると、例えばトップクラスの棋士がやっぱり一番将棋に対する愛情、敬意を持って接していますね。

対局前の一礼にしても、羽生善治さんをはじめとするトップの人ほど深々と礼をするんです。その姿勢は相手が先輩でも後輩でも変わらない。そして対局後に「負けました」と言うのは一番辛いですけれども、それもやっぱり強い人ほどハッキリ言うんですね。

それから、棋士の中には対局開始前ギリギリにやってくる人もいます。さすがにトップ棋士は対局の十分、十五分前にはちゃんと対局室に入るけれども、そういう心掛けのできていない人は、電車が遅れたりしたら大変です。なんとか対局に間に合ったとしても、その人はそこで運を使い果たしていると思うんです。

将棋も囲碁も先を読みますが、どんなに頑張ってもどこか読み切れない部分があります。そういう最後の最後、一番大事なところで運が残っているかどうかというのが非常に大事だと思うんです。

ですからどんな対局であっても、与えられた条件で最善を尽くして運を味方につけることが大事です。

対局の持ち時間を残して勝負をあっさり諦めるような人は、やっぱり成績も振るわないし、最後の最後の大事な場面で勝ちを逃すことが多いような気がします。

よく天才とか才能とかいう言葉を使うんですけれども、それは決して一瞬の閃きではなくて、毎日の積み重ねが自然にできることがやっぱり才能だと思いますね。

どんなに酷い負け方をしても、翌朝には盤の前に自然と座れることが大事で、やけ酒を飲んで次の日を無駄にしてしまうような人は、やっぱりだんだん差をつけられていくんでしょうね。

私は最近「心想事成」という言葉が好きでよく揮毫(きごう)させていただくんです。心に想うことは成るという意味ですが、そのためには平素からどれだけ本気で勝負に打ち込んできたかということが大切だと思います。

真剣に本気で打ち込んできた時間が長く、思いが強い人ほどよい結果を得ることができるし、そのための運も呼び寄せられるのではないでしょうか。

勝負の神様はそういうところをきちんと見ておられるし、それはその対局の時だけでなく、普段の生活のすべてを見ておられると思うんです。もちろん人間ですから一日中将棋のことを考えているわけにはいきませんが、体の中心に将棋というものが軸としてあるか、そこが問われると思います。

-------------------------------------------------------------------------------------------

谷川九段は「棋士には勝負師、研究者、芸術家の顔が必要だ」と語っています。藤井五冠の棋士としての一番の顔は、研究者だと私は思います。

王将戦七番勝負の初日で藤井五冠が差した8六歩の一手を「常識外れの一手」とテレビのワイドショーは紹介しました。又、副立会人の神谷八段は「これがいい手だというなら、私が習ってきたことは全て間違いだったということになる」と目を見張りました。

実は、この8六歩は、他の類似した局面で、将棋AI(人工知能)が時折出す手だったのです。

今の将棋界では棋士たちがこぞってAIを練習に取り入れていますが、藤井五冠は小学校2年の時にパソコンでネット将棋をはじめ、中学校1年の頃からAI研究をはじめていました。


藤井五冠の強さは、AIの研究だけではなく「詰め将棋」をはじめとした伝統的な手法も棋界随一で、アナログとデジタルを水面下で日々研究し、常に高みを目指してきた最高の研究者なのです。

史上最年少で九段昇段を果たした藤井五冠の「揮毫入り扇子」の揮毫が決まりました。 
「雲外蒼天」(うんがいそうてん)です。
「困難や試練(雲)を乗り越えた先には青い空が広がっている」という意味の四文字熟語で、藤井五冠の並々ならぬ決意が込められています。

正に、運を無駄遣いせずに、味方につける人です。

株式会社リゾーム
代表取締役 中山博光