社長の一言集

第187号「知の再武装を通じた心のレジリエンス」

2022/01/28

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知の再武装を通じた心のレジリエンス

                2022年187号
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1月3日の米ニューヨーク株式市場で米アップルの時価総額が一時、3兆ドル(約345兆円)を突破しました。アップルは2018年8月に米企業として初めて1兆ドルを突破し、2年後の20年8月には2兆ドルに達し、そこから約1年4カ月で3兆ドルに到達したことになります。

コロナ禍で、経済のK字回復がより顕著になり、特にGAFAM、それを活用するデジタル企業の躍進は目を見張るものがあります。しかし一方では、格差、分断、覇権が世界中で社会問題化しています。

今後、経験したことのない混迷の時代への突入を覚悟しなければなりません。
三つの資本主義について、寺島実郎氏の興味深い記事がありました。

寺島実郎氏 一般社団法人日本総合研究所会長 多摩大学学長
「進むべき中小企業の針路 ― 日本の産業を考える」
月刊『理念と経営』株式会社コスモ教育出版 2021年12月号より
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産業大国・日本―というのも今や昔の話。その柱となる産業は、新興国などの猛追によって縮小を余儀なくされ、存在感はますます薄まるばかりである。経営環境が激変するなか、これから重要になるのが「国民の安全と安定を担保する産業構造」だと、寺島氏は分析する。

最近の講演で私が強調しているのは"三つの資本主義"についてです。戦後の日本は「産業資本主義」における工業生産力モデルの優等生だったわけですが、今の日本は、「金融資本主義」と「デジタル資本主義」の狭間で大きく揺さぶられ、その渦巻く混乱のなかに呆然と立ちすくんでいる状態です。

戦後の日本は、豊かな国になるために、必死になって外貨を稼げる産業を育てました。その典型的な産業が、鉄鋼産業であり、エレクトロニクス産業であり、自動車産業でした。確かにそれらによって日本は豊かな暮らしを手に入れましたが、資本主義の新局面を迎えている今、産業構造のパラダイム転換が求められています。

現在の日本企業に目を向けてみると、エレクトロニクス産業の雄である東芝や日立などはもがき続けているし、重化学工業の中心にいた三菱重工もグループ企業による「三菱スペースジェット」(旧MRJ)の挫折でその地位が揺らいでいます。一億二〇〇〇万tの粗鋼産業は、昨年八三〇〇万tまで落ち込みました。つまり、私たちがこれまで世界の産業大国だと思ってきた日本の柱となる産業が、ことごとくメルトダウンしてきているのです。この現実を直視しなければなりません。

戦後日本において尊敬される優れた経営者は、松下幸之助も本田宗一郎も井深大も盛田昭夫も、いずれも産業資本主義の担い手でした。また、日本が工業生産力モデルの優等生だった時代の象徴的な哲学は、松下幸之助が提唱したPHP(Peace and Happiness through Prosperity)でした。つまり、繁栄があってこそ平和と幸福がもたらされるという哲学です。当時においては、PHPは優れた哲学でしたし、前述の優れた経営者たちも手本となるべき存在でしたが、"三つの資本主義"のなかで翻弄されている今は、新しい日本の産業をどう創生すべきか、どこへ向かうのかを真剣に考えなければなりません。 (中略)

加えて、私が中小企業経営者の皆さんに訴えたいことは、「知の再武装を通じた心のレジリエンス」を身につけてほしいということです。レジリエンスは、「耐久力」や「回復力」と訳されます。今の時代は、コロナ禍をはじめとしてあまりにも困難なことが多く、それらに耐える力や回復力がとても大事なのです。コロナによる死亡者数は今、一万七八〇〇人ほど(10月7日時点)ですが、二〇二〇年の自殺者数は二万人を超えました。特に若い人の自殺者数が増加しています。しかも、十代、二十代、三十代の同年の死因のトップは自殺なのです。これは、大変大きな問題です。

心の耐久力や回復力を養うためには、自分自身の知の基盤を強化することが大事です。今の時代は新聞も本も読まなくなり、ネットやSNSで情報を収集するようになりました。それらは検索エンジンから入手するものなので自分が好む情報ばかりが入ってきます。つまり、自分の視野を狭くするのです。そうすると、心はバランスを欠き、柔軟性を失います。そうならないためにも、幅広い分野の確かな知を吸収し、知の再武装をすることが重要なのです。

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寺島実郎氏は多摩大学大学院MBAのHPで「知の再武装」について、「人生のある時期に、人は自分の生き方に悩むことがあります。30代、40代の時期が多いでしょう。いわゆる『中年の危機』と言われる人生の見直しタイミングです。また50代、60代でも、ビジネスパーソンとしての『時分の花』が過ぎていくように感じたときも、悩みが訪れるでしょう。 そんなときこそが、次の人生のスタートに立つチャンスです。それまで培ってきたキャリアやスキルを棚卸し、何で自分らしさを打ち立てていくのか、どんなプロとして生きていくのかを決めるチャンスです。そのチャンスを生かすのが『知の再装』への決意なのです。」と述べられています。

又、アメリカの心理学者であり、ペンシルベニア大学のアンジェラ・リー・ダックワース教授は
「レジリエンス」に加え、GRIT(グリット/やり抜く力)を実践することで、困難に打ち勝ち、人生を成功させられると語っています。

① Guts(ガッツ):困難に立ち向かう「闘志」
② Resilience(レジリエンス):失敗してもあきらめずに続ける「粘り強さ」
③ Initiative(イニシアチブ):自らが目標を定め取り組む「自発」
④ Tenacity(テナシティ):最後までやり遂げる「執念」

辛抱強く、耐えながらも最後まで夢をあきらめない。という事でしょうか。

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節あればこそ竹は強い。人生にも節をつくりたい。
そして人生に耐える力を養いたい。        松下幸之助 翁

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今年は、日本にとっても大きな節目になりそうです。

株式会社リゾーム
代表取締役 中山博光