社長の一言集

第181号「私はこの危機を乗り超えるために生まれてきたのかもしれない」

2021/07/30

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「私はこの危機を乗り超えるために生まれてきたのかもしれない

                2021年181号
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富士フイルムの古森重隆氏の代表取締役会長兼CEOの退任及び、最高顧問への就任が、6月の株主総会で決定されました。

写真フィルムの市場縮小でフィルム業界が「本業消失」の危機的状況の中、社長、会長として本業の写真フィルムから、医療関連や事務機器への業態転換を見事に成し遂げた、誰もが認める名経営者です。

その名経営者の、実践と理論がまとめられた名著が、今年出版されました。

『NEVER STOP イノベーティブに勝ち抜く経営』
著者 フィリップ・コトラー氏 
富士フイルムホールディングス株式会社最高顧問 古森重隆氏
訳者 早稲田大学教授 恩藏直人氏
発行 日経BP 日本経済新聞出版本部

『CHAPTER2 富士フイルムの改革 絶対に負けられない戦い』古森重隆氏著
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「来るものが、来てしまった。このままでは大変なことになる」というのが、当時の私の思い出だった。

2003年にCEOに就任し、会社の改革を進めるにあたって、私が真っ先に考えたことは、「富士フイルムという会社を、21世紀を通してリーディングカンパニーとして生き続けさせる」ことだった。

ただ生き延びるだけであれば、不採算事業を切り離すなど方法はいろいろあったが、そうした選択肢を選ぶ気持ちは微塵もなかった。

これまでイメージング業界において、世界のリーディングカンパニーの一つとして高収益を上げ続けてきた富士フイルムという会社を、21世紀も社会的に存在意義のある会社として存続させねばならないという思いしかなかった。

足元が崩れていくような危機的状況の中で経営の舵取りを任されたとき、「私は、この危機を乗り越えるために生まれてきたのかもしれない」という強烈な使命感を抱き、武者震いする思いであった。

人生で最後の宿題、難題を突き付けられたような思いであり、これをしくじったら、私の人生は失敗になると考えたほどだ。生半可なことでは、この難局を乗り切れない。

何としてでも、事業構造の変革を成功させることを心に決めた。 

(中略)

これは、どのような業界・会社にも言えることだが、足元の業績がどれだけ良くても、変化の「兆し」を見過ごしてはならない。
世の中や市場に変化が訪れるときには必ず兆しがあるはずだ。
その兆しはわずかなものかもしれないが、逃すことなく認知できるかが重要であり、経営者は自らの感度を日ごろから磨いておかねばならない。

世の中や市場の動きに常にアンテナを張り、これまでとは違う何かが発現していないか、それが微小な変化であっても、見逃さない、研ぎ澄まされた感覚が必要である。
仮に、その「兆し」が自社にとって不利に働くことが予見されたなら、なおさら、逃げることがあってはならない。

時が経つほどにマイナスインパクトは大きくなるものであり、最悪は手遅れの状態に陥る。

経営者は、現実を直視し、何が起きているのか、何がこれから起きようとしているのか、状況を正確に把握し、この後どうなるかを読み、その上で何をやらなければならないかを考えて、動く。

これこそが経営なのだ。

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古森重隆氏は、大きな改革と挑戦のために2006年春に富士フイルム先進研究所を開設しています。そこには二つのシンボルがあります。
ミネルバという女神と、梟(ふくろう)の像です。

哲学者ヘーゲルは『法の哲学』の序文で、『ミネルバの梟は黄昏に飛び立つ』という言葉を記しています。

ローマ神話の女神ミネルバは、技術や戦の神であり、知性の擬人化と見なされていました。
梟はこの女神の聖鳥です。一つの文明、一つの時代が終わる黄昏の時に、ミネルバは梟を飛ばしました。
それまでの時代がどういう世界であったのか、どうして終わってしまったのか、梟の大きな目で見させて総括させたのです。
そして、その時代はこういう時代だったから、次の時代はこういうふうに備えようと、梟の総括を活かしていたのです。

経営は「創業期」「成長期」「成熟期」「衰退期」というサイクルがあると言われますが、まったくの想定外の「危機的事態発生期」が潜んでいます。写真フィルムのようにじわじわと確実に市場が消滅する事態もあれば、コロナ禍のように突然襲い掛かる事態もあります。

この事態を迎えた時に、古森重隆氏のように「自分がこの危機を乗り超えるために生まれてきたのかもしれない」という強烈な使命感を抱き、次を予測し、備え、果敢に行動できるトップの存在が不可欠となります。

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幸か不幸か、いかなる組織も危機に襲われる
必ず襲われる
そのときがリーダーに頼る時である
リーダーにとって最も重要な仕事は、危機の到来を予期することである
回避するためでなく備えるためである

P・F・ドラッカー氏

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リーダーはどんな状況下でも、全て自己責任という潔さを持って「真剣」に戦わなければなりません。
責任者不在の経営、政治は哀れで悲惨です。

株式会社リゾーム
代表取締役 中山博光