自施設の魅力を最大化し、来館客数や買い回り率を増加させる、このテーマは商業施設を運営されている企業が常に抱えている課題かと思います。その課題を解決する手段のひとつがリーシングで、「どのショップを誘致するか」が施設の魅力向上につながります。
そんなリーシングにおいて、運営企業のご担当者様が重要視していることは何なのでしょうか。
今回、商業施設を運営されている企業のご担当者様に、「自施設のリーシングで重要視していること、特にショップに求めたいことは?」という独自アンケートを実施しました。
後編である本記事では、前編でお伝えしたアンケート結果を踏まえて、リーシングで実際にどのようなショップが誘致されているのか、直近2年間で商業施設における店舗数が急増しているショップと、各施設の業種構成の変化をご紹介します。
まだアンケート結果をご覧になっていない方は、こちらからご覧いただけます。
【商業施設運営企業のご担当者に聞いた】自施設のリーシングで重要視されていることは?|前編
過去2年の出退店データから見えた
出店急増中のショップ
本アンケートにより、「集客力や話題性」「契約条件と賃料支払い能力」「ブランドと顧客層の適合性」「安定した売上」などが重要視されていることが分かりました。では、実際にどのようなショップが商業施設への出店を増加させているのでしょうか。
ここからは、弊社が毎月独自に調査・収集している「SC GATE(エスシーゲート)」のデータを基にBIツールで可視化・分析できるクラウドサービス「SC FORCE(エスシーフォース)」を活用して、2023年7月~2025年6月までの直近2年間で店舗数の伸び率が著しいショップをいくつか取り上げてご紹介します。(以下でご紹介する伸び率は、2023年7月時点の店舗数を100%とした場合の数値となります。)
※「SC FORCE」とは、全国3,500カ所の商業施設に出店する16万ショップ(325業種)の出退店データをBIで活用するクラウドサービスです。
一番くじ公式ショップ:766.7%
「一番くじ公式ショップ/運営:株式会社BANDAI SPIRITS」は世界初の「一番くじ」専門店です。
2023年7月時点では3店舗でしたが、2025年6月時点の店舗数は23店舗となり、直近2年間の伸び率は766.7%です。2021年9月に商業施設に初出店して以降、退店と見られるデータはなく、着実に店舗数を増やしています。
「一番くじ」自体は発売から20年以上が経過していますが、ここ数年でさらに人気が増しており、話題性や集客力の高さからリーシングにおいても注目されていると考えられます。
LOCUST:900%
「LOCUST(ローカスト)/運営:ローカスト株式会社」は、さまざまな理由で販売されなかった商品を提供しているセレクトショップ型オフプライスストアです。
直近2年間で店舗数は3店舗から27店舗へと増え、伸び率は900%、関東と近畿を中心に展開されています。新品のブランド品が最大90%オフ、毎日セール価格で販売されていることが最大の特徴です。
Standard Products:225%
「Standard Products(スタンダードプロダクツ)/運営:株式会社大創産業」は、すでに144店舗と大規模に展開されているにもかかわらず、直近2年間での伸び率は225%と著しいです。
さらに、2021年4月に初出店して以降、140店舗以上を展開しているにも関わらず、退店はわずか2件です。そのため「安定した売上」が重要視され、リーシングが行われているケースも少なくないと考えられます。
牛角焼肉食堂:376.9%
「牛角焼肉食堂/運営:株式会社レインズインターナショナル」は、大手焼肉チェーン店の「牛角」がプロディースする、フードコート専門店です。
直近2年間で13店舗から49店舗へと増え、伸び率は376.9%を示しています。商業施設への初出店は2016年とかなり前ですが、店舗数が急増し始めたのは、2023年に入ってからです。
また、2027年中に100店舗を目指すことが公表されています。
pilates K:562.5%
「pilates K(ピラティスケー)/運営:株式会社LIFE CREATE」は、マシンピラティスを手ごろな価格で提供しているピラティススタジオです。
直近2年間で8店舗から45店舗へと拡大しており、伸び率は562.5%と高い数値となっています。商業施設に初出店した2019年以降、退店と見られるデータはありません。
また、郊外よりも市街地への商業施設に出店しているケースが多いことも、「pilates K」の特徴の1つです。
店舗数の伸び率が高いショップを5つご紹介しましたが、共通して「集客力と話題性」を兼ね備えていたのではないでしょうか。また、退店事例がほとんど見られず、それは「安定した売上」「経営の安定性」を重視する施設にとっても前向きに検討しやすい要素です。
伸び率は高いですが、全国的な店舗数はそれほど多くないので、自施設の活性化や、他施設との差別化につながるリーシング候補になればと思います。
過去との比較で読み解く、商業施設の業種構成の変化
本アンケートにおける順位はそれほど高くなかったものの、12人のご担当者様が重要視されていたのが、「業種バランスとテナントミックス」です。
自施設の魅力を最大化するには欠かせない要素であり、仮に集客力のあるショップばかりを揃えても、業種バランスの取れていない施設は魅力を損ねてしまいます。
ただし、最適な業種バランスやテナントミックスは時代によって変わるため、その判断は難しいです。
そこで、「SC GATE」を活用し、8年前と現在の商業施設の業種構成を比較して変化を見ていきます。今回は、商業施設の中でも業種構成を比較しやすい「駅ビル」に絞り、都心部・中核都市・地方都市に分けて、それぞれ2つずつご紹介します。
※「SC GATE」とは、全国のSC・百貨店6300施設、24万ショップ、13万のショップブランド、4万のショップ運営企業等の情報を搭載したデータベース
東京都の駅ビルA

まず、東京都の駅ビルAでは、「ファッション」が18%から9.5%へと8.5ポイントの減少、「ファッション雑貨」が18.6%から11.8%へと6.8ポイントの減少です。
この2つが大きく減少したことにより、「飲食(+2.3)」「食品(+4.9)」「サービス(+5.3)」の顕著な増加がうかがえます。
こうした変化の背景には、中食需要や手土産ニーズの拡大や、帰宅動線上での日常利用を取り込む戦略があると考えられます。
大阪府の駅ビルB

大阪府の駅ビルBにおいては、「飲食」の著しい増加が目立ちます。8年前から「飲食」が占める割合が大きい駅ビルでしたが、23.3%から29%へと5.7ポイントの増加です。
それに伴い、その他の業種は「食品(+0.6)」を除き、全て減少傾向にあります。
その中でも、「ファッション(-1.3)」「ファッション雑貨(-2.3)」は他業種よりやや大きい減少で、その点においては駅ビルAと同じ変化が見られます。
兵庫県の駅ビルC

兵庫県の駅ビルCでは、「ファッション」の減少が目立ち、8年間で7.1ポイントの減少です。
その他の業種に関しては、「ファッション雑貨(-1.4)」「アキューズメント(-0.5)」を除き、全て増加しています。その中でも、増加が顕著なのは「生活雑貨(+2)」「飲食(+1.2)」「サービス(+3.5)」です。
また、全体に占める割合は少ないものの、「スポーツ・ホビー」が1.6%から2.6%へと1ポイント増加しており、駅ビルCならではの構成比の変化となっています。
神奈川県の駅ビルD

神奈川県の駅ビルDでも、他施設と同様に「ファッション(-5.3)」の減少が目立ちますが、それに伴い「ファッション雑貨(-1.9)」と「サービス(-1.2)」も減少しています。
これら業種が減少したことにより、「飲食」が15%から20.5%へと5.5ポイントの増加です。
また、8年前は0.6%だった「インテリア・寝具・家電」が2.1%へと増加しており、全体に占める割合は少ないものの、新たなテナントミックスの一端を担っていると考えられます。
茨城県の駅ビルE

茨城県の駅ビルEは、都心部・中核都市の施設では大きな変化が見られなかった「サービス」が、18.2%から27.7%へと9.5ポイントの増加です。
8年前は「食品」(24.7%から24.1%へと-0.6ポイントの減少)が最も大きな割合を占めていましたが、現在は「サービス」が最大構成比となっています。
また、「サービス」が増加した分、「ファッション」が9.9ポイントの減少です。
「サービス」がこれほど増加した背景としては、地方都市の人口減少・高齢化や、日常利用を狙った戦略変更などが考えられます。
鹿児島の駅ビルF

鹿児島県の駅ビルFは、8年間で業種バランスが大きく変わっています。
まず、「ファッション」は31.7%から23.1%へと、8.6ポイントの減少となり、「ファッション雑貨」も3.6ポイントの減少です。
一方で、これら2つの業種以外は全体的に増加しており、その中でも「生活雑貨」は3.1ポイント、「サービス」も5.1ポイントの増加となっています。
これら2つの構成比が大きく拡大しているのは、上記5つの駅ビルでは見られなかったため、駅ビルFならではの特徴的な変化と考えられます。
駅ビルの業種バランスの変化で見えたこと
8年間の推移を見てみると、「ファッション」の減少は都心部・中核都市・地方都市を問わず、共通する傾向として表れています。特に、中核都市・地方都市においては、より減少が目立ちました。
その減少分を補うかのように、都心部・中核都市では「飲食」の構成比が拡大しており、この傾向は駅ビルだけに限定されないとみられます。
さらに、「食品」の増加も複数の駅ビルで確認でき、中食需要の高まりや、日常使いの強化を目的としたリーシング戦略が背景にあるでしょう。
また、駅ビルCでは「スポーツ・ホビー」、駅ビルE・Fでは「サービス」の構成比が増加するなど、地域ごとのライフスタイルや施設ポジションに応じて、特徴的な業種構成の変化が見られる点も注目されます。
こうした変化から、一律的なテナント構成が求められる時代ではなくなり、地域ニーズに応じたテナントミックスがより重要視されていることが読み取れます。
上記でご紹介した全国各地の商業施設における業種別の構成比は「SC GATE」で確認できますので、ご興味のある方はぜひお気軽にお問合せください。
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後編まとめ
後編である本記事では、前編のアンケート結果を踏まえて、リーシングで実際にどのようなショップが誘致されているのか、直近2年間で店舗数が急増しているショップと、駅ビルにおける業種構成の変化をご紹介しました。
店舗数が急増しているショップとしては、「一番くじ公式ショップ」「LOCUST」「pilates K」などが挙げられます。これらはいずれも一定の集客力・話題性を背景に、売上の安定が期待される(退店が少ない等)点で共通していることがうかがえます。
また、業種構成の変化については、多くの施設で「ファッション」の構成比が縮小している一方、地域ニーズに応じて「飲食」「食品」「サービス」などが増すケースが目立ちました。
前編・後編にわたってお伝えした、アンケート結果や成長ショップ、業種構成の変化などが、ショップの選定やリーシング戦略を検討する際の一つの視点として、ご参考いただければと思います。