今や生成AIは多くの分野で注目を集め、その影響は私たちの生活や仕事にも広がりつつあります。2022年11月に対話型AI「ChatGPT」が公開されて以降、様々なシーンで生成AIが活用され、企業から個人まで幅広い業務に革新を起こし、世界に新しい潮流を生み出しています。
本記事では、商業施設における生成AI活用にスポットを当て、取り組み状況や活用事例を調査しました。生成AIがどのように商業施設に新しい価値を生み出しているのか、その具体例を交えてご紹介します。
商業施設における生成AIの動向や新たな取り組みについては、今後も継続してコラム記事として発信していきますので、ぜひご注目ください。
生成AIに対する日本企業の取り組み状況
まずは、日本企業全体における生成AIに関する活用方針や状況、そしてその捉え方について詳細なデータをご紹介します。
生成AI活用方針の策定状況で欧米・中国に遅れ、
日本は慎重な姿勢を維持
総務省が2024年1~2月にかけて実施した、「生成AIの活用方針は定まっていますか」というアンケートによると、日本企業の約15%が「積極的に活用する方針である」と回答しました。他国のアンケート結果を見てみると、米国:約46%、ドイツ:約30%、中国:約71%となっています。
つまり、日本企業の約15%しか積極的に活用する方針を示しておらず、他国と比べて大きく遅れを取っている状況ということです。
また、「活用する領域を限定して利用する方針である」と回答した割合も約27%と少なく、日本企業は生成AI活用に対して慎重な姿勢であることが伺えます。
半数に満たない、日本企業の生成AI活用率
続いて、生成AIの活用が想定される業務ごとの活用状況に関するアンケートをご紹介します。
調査対象となったのは、「メールや議事録、資料作成等の補助」や「事業や商品の企画におけるアイデア出し、シミュレーション」、「広報コンテンツの作成」など、7つの業務でしたが、どの業務においても活用率は50%にも満たない結果となりました。
日本企業での活用率が最も高い結果となった「メールや議事録、資料作成等の補助」(上記画像)においても約46%に留まり、米国:約84%、ドイツ:約72%、中国:約84%などと比較して、この業務でさえ遅れを取っていることが分かります。
他国と比べて日本企業は生成AI活用を重要視できていない
前述の通り、他国と比べて日本企業における生成AI活用の取り組みは遅れています。その原因の1つとして、捉え方に違いがあることが挙げられます。
「生成AIを活用しないと企業としての競争力が失われると思いますか」というアンケートで、「そう思う」と答えた割合は日本:約19%でした。他国は、米国:約41%、ドイツ:約37%、中国:約41%となっています。
つまり、日本では他の先進国に比べて生成AI活用を重要視していない企業が多く、そのため積極的に取り組んでいる企業が少ない状況です。
日本企業の生成AIへの取り組みは危機的な状況
アンケート結果に基づく調査で、日本企業の生成AIへの取り組みや意識が他国に遅れを取っていることが明らかになりました。この遅れは、今の日本において危機的な状況と捉えるべきです。
その理由は、「少子高齢化による働き手減少」や「拡大する生成AI市場への参入遅れ」といった問題が挙げられます。ここからは、生成AIの活用が必須になると考えられる日本が抱える問題について掘り下げてみます。
少子高齢化が進む日本で、
働き手は今後20年間で約20%も減少
昨今、少子高齢化について耳にする機会が増えていますが、今後日本はさらにこの傾向が進み、働き手は減少すると推測されています。
内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、働き手となる「生産年齢人口」は年々減少し、約20年後の2045年には、2025年の7,310万人から5,832万人まで減少します。
このような社会問題を抱える日本にとって、生成AIの取り組みが他国より遅れていることは、危機的な状況と言えるでしょう。
日本企業の活用率が低い一方で、
世界の生成AI市場は拡大の一途
出典:「令和6年版情報通信白書」(総務省)
データ元:「The CEO's Roadmap on Generative AI」(ボストン コンサルティング グループ )
日本企業における生成AIの活用率が低い一方で、市場規模は急速に拡大すると予測されています。
総務省の「令和6年版情報通信白書」によると、生成AIの世界的市場規模は2022年の9億ドルから、2027年には1,210億ドルまで拡大します。この1,210億ドルという市場規模は、2023年の世界のノートPC市場とほぼ同じです。
つまり、生成AIの活用に消極的であると、市場の成長に追いつけず、グローバルでの競争力を失う恐れがあります。市場規模が拡大するほど活用率が高まると予想されるため、今の日本の取り組み状況は危機的と考えられます。
商業施設とその運営企業における生成AIの最新動向
他国が日本よりも生成AI活用を重要視していることや、日本での働き手減少、今後さらに市場規模が拡大することなどを踏まえると、やはり生成AI活用は抑えておきたい最重要な潮流の1つです。
2024年1~2月時点では、他の先進国と比べて生成AIの活用に積極的な日本企業は少ないですが、商業施設を運営する一部の企業では積極的な取り組みが見受けられました。
ここからは、商業施設とその運営企業における生成AIの取り組み状況や事例についてご紹介します。
リーシング業務を生成AIがサポート【リーシング】
商業施設における生成AI活用の動向としては、リーシング業務での活用が挙げられます。
商業施設にとってリーシングは、業績に大きな影響を与えるため、非常に重要な業務です。
しかし、膨大なショップ情報の中から、自施設に適したテナント候補を選び出すことは容易ではありません。このプロセスに生成AIを導入することで、テナント選定の効率が向上し、自施設の特性や客層に最適な候補をより迅速に見つけることが可能になります。
さらに、生成AIの活用により、個々人の経験や直感に頼らず、新たな視点からの提案やインサイトが得られることも期待できます。
生成AIは、従来の方法では見落とされがちな潜在的なテナントを発見し、最適なリーシングを実現するための強力なツールとなり得えます。
商業施設リーシングAI「PROCOCO」
リゾームでは、リーシング業務を生成AIでサポートするソリューション、商業施設リーシングAI「PROCOCO」をご用意しております。
全国の商業施設、約24万ショップ(325業種別)の出退店データベースを有した「SC GATE」をもとに、Microsoft社Azureのセキュアな環境のもと、生成AI・ChatGPTがテナント候補リスト生成をアシストします。
リーシングリスト作成業務を大幅に軽減し、リストの精査・検討・具体的な出店交渉に向ける時間を創出することができます。
商業施設の運営業務に生成AIを取り入れたい方や、リーシング業務に課題を感じている方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
生成AIを活用したデジタルのポップアップストアで
出店ハードルを軽減【省人化】
2つ目の生成AI活用として、生成AIを搭載したAIアバターやスマート商品棚を活用したデジタルのポップアップストアが注目されています。
お客様の質問に対応して最適な商品を案内するAIアバターや、人感センサーと連動し、商品を手に取ると詳細を自動でサイネージに表示するスマート商品棚など、最先端技術が活用されています。
これにより、スタッフ確保の問題を抱える企業も、商業施設に常駐スタッフを置かずに、多地点への手軽な出店が可能です。
生成AIを活用したデジタルのポップアップストアにより、商業施設への出店のハードルが下がり、顧客体験の向上も期待されます。
生成AIチャットボットでカスタマーサポートを強化
【顧客対応】
生成AIを搭載したアバターが接客サービスを提供
【顧客対応】
商業施設における5つ目の活用動向は、生成AIを搭載したアバターの接客サービスです。
これまでも商業施設ではAIアバターによる接客が行われていましたが、生成AIを搭載したものが増え始めています。
アバターによる接客サービスに生成AIが搭載されたことで、お客様からの問い合わせに対してリアルタイムで回答する能力が向上し、マニュアルや対話データから継続的に学習することで、常に最新情報の提供が可能になります。
また、継続的な精度向上により、お客様のニーズに合った接客サービスを提供し、お客様満足度の向上やリピーターの獲得にも貢献できます。
人手不足が問題視されている商業施設では、テナントと運営企業双方にとって、アバターによる接客サービスが重要なトレンドとして注目されていくことが予想されます。
ルミネ藤沢:生成AI搭載のアバターを設置
ルミネ藤沢(運営会社:株式会社ルミネ)では、生成AI搭載のアバターが設置されています。
ルミネ藤沢には、有人のインフォメーションがなく、生成AIを搭載したアバターがお客様に接客サービスを提供しています。具体的には、館内の施設案内やイベント情報などの提供、ルミネカードのお問い合わせ対応などが挙げられます。
広告画像やキャッチコピーを生成AIで作成【販売促進】
6つ目は、生成AIを活用した広告画像やキャッチコピーなどの作成です。
これまでもAIによって広告画像やキャッチコピーは作成されていましたが、創造性には限界がありました。
しかし、生成AIを活用すると、既存パターンの組み合わせではなく、ゼロから新しいアイデアを生み出し作成することが可能になります。
また、短期間で多くの広告画像やキャッチコピーを作成でき、ニーズやターゲットに合わせることも可能です。生成AIで作成することには、広告効果の向上と効率化が期待されます。
パルコ:生成AI技術を駆使し広告画像を作成
全国各地に商業施設を展開しているパルコ(運営会社:株式会社パルコ)では、生成AI技術を駆使して広告画像を作成しています。
2023年冬のファッション広告「HAPPY HOLIDAYSキャンペーン」で用いられた画像が、生成AI技術を駆使して作成されていて、「デジタル・コンテンツ・オブ・ジ・イヤー'23/第29回 AMD Award」で、年間コンテンツ賞「優秀賞」を受賞しています。
その後、生成AIを駆使した広告画像の作成有無は公表されていませんが、商業施設の中でも積極的に活用している事例になるでしょう。
映像解析AIによる施設の安全管理と効率化【施設管理】
商業施設における生成AIの活用事例をこれまで紹介してきましたが、最後にAI技術の一例として映像解析AIの活用についてもご紹介します。
映像解析AIは、リアルタイムで映像を解析し、人数のカウントや混雑状況の把握、異常行動の検出などを行うことができ、施設内の状況把握や安全管理において大きな可能性を秘めています。これにより、人手を減らしつつ効率的な管理が実現できます。
サンシャインシティ:映像解析AIによる警備業務の効率化と質向上
観光やショッピング、ビジネスなどを目的とした年間3,000万人を超える多くの人が訪れるサンシャインシティ(運営会社:株式会社サンシャインシティ)では、防犯カメラに映像解析AIが導入されています。
この技術は、施設内での安心・安全な環境作りを目的とし、警備体制の強化を図っています。
AIが迷惑行為や異常な行動を検知すると、約1秒で警備員に通知が届く仕組みが整えられ、警備業務の効率化と質向上に貢献しています。
商業施設の生成AI活用まとめ
本記事では、商業施設における生成AIの取り組み状況や活用事例、最新動向についてご紹介しました。
日本企業における生成AIの活用率は他国と比べてもかなり低く、依然として多くの業務が人手に頼っている状況が続いています。今後、日本国内での人口減や少子高齢化による働き手の減少、加えて世界的な市場規模の拡大を考慮すると、生成AIの活用率が低いことは危機的な状況とも考えられます。
しかし、そのような状況下でも、積極的に生成AI活用に取り組んでいる商業施設やその運営企業は存在します。実際に生成AIを活用したソリューションを導入している商業施設や、生成AI技術を駆使して業務効率化を図っている事例も見受けられました。
そして、生成AIは業務効率化や顧客体験の向上などに加え、働き手の減少や市場競争の激化に対処するための重要なツールです。これからの商業施設運営においても、その役割はより一層拡大していくと考えられます。
今後も継続して、商業施設における生成AIの取り組み状況について発信していきますので、ぜひご注目ください。
リゾームでは、商業施設における運営業務をサポートする製品を多数ご用意しております。リーシング、デジタル化、データ活用など課題解決に向けたご相談などお気軽にお問い合わせください。