リゾーム社員が考える理想の商業施設・ショップ

関西初の複数施設横断型飲食店サブスクサービスで利用機会の拡大と来店頻度の向上をめざす!

会社 JR西日本アーバン開発株式会社
WEBサイト https://www.jrw-urban.co.jp/
インタビュー JR西日本アーバン開発株式会社 営業推進部 運営グループ 白井 佑樹様
実施店舗 ピオレ、プリコ 他同社施設

JR神戸線沿線で立地やエリアに合わせた10のショッピングセンターを運営する「JR西日本アーバン開発」。コロナ禍で疲弊する飲食テナントの支援として始めたのが、複数の施設を横断して利用できるサブスクリプションサービスだ。失敗を恐れずにチャレンジすることで新たな可能性が見えてきた。

…まず、JR西日本アーバン開発様の企業概要と現状についてお聞かせください。

当社はJR西日本グループのなかで、ショッピングセンター(SC)の運営管理と開発を行う会社です。兵庫県下のJR姫路駅から甲子園口駅までの東西約75キロ間に10のSCを展開しています。特徴は大きく2つのタイプのSCを運営していることです。ひとつは、「ピオレ」という屋号のコミュニティ型SCで、衣食住のあらゆる業種を取り揃え、当社内では大型SCに位置付けています。もうひとつは、「プリコ」という屋号の地域密着型SCで、近隣のお客様に対して生活必需品を提供するテナントをミックスしています。新たに開発したのが、2019年に開業した「甲子園口グリーンプレイス」です。JR甲子園口駅から離れた立地にあり、初の駅外SCに挑戦しています。

最近の動向では、2020年3月にJR芦屋駅の「モンテメール」を改装オープンしました。芦屋のミセス層がよく利用する施設ですが、40代以下の若い世代も利用できる施設に改装しました。ピオレ明石は、改装によってそれまで取り込めていなかった30〜40代のお客様が増え、売上げは堅調に推移しています。ピオレ姫路もコロナ禍以前は毎年、売上げを伸ばしてきました。

しかし、コロナ禍で鉄道利用者が減少し、SCの売上げにも大きく影響しています。とくに広域型で観光客が多いピオレ姫路は厳しい戦いを強いられています。それに比べて生活密着型の「プリコ」は売上の回復が早く、地域からの信頼で支えられていることが今回よくわかりました。

…白井さんが所属している営業推進部 運営グループの業務内容は。

全施設で共通して実施する販売促進活動やCS、ESにかかわる施策の企画を担当しています。

…4月15日からスタートしたサブスクリプション「ジョイワン飲食パスポート」はどんなサービスですか。

月額500円で対象店舗の特典を受けられるサービスです。スマホの会員券利用画面を提示すれば、来店するたびに特典を受けられます。ドリンク1杯無料、デザート1品サービスなど特典内容は店舗ごとに異なります。気軽に試してほしいという思いから、9月30日までの期間限定で初月無料キャンペーンを開催しています。

当社が運営する10の施設を対象に、すべての飲食店に参加を呼びかけており、スタート時点では4施設で11店舗が参加しています。対象店舗は順次増やしていきます。

運営する商業施設のホームページで「ジョイワン飲食パスポート」の販売をアピール複数の商業施設で利用できる飲食のサブスクリプションはめずらしい

…御社では「ジョイワンカード」というポイントカードも発行されていますが、あえてサブスクリプションサービスを始めた理由は何ですか。

コロナ禍によって、SCのテナントは多大な影響を受けています。なかでも飲食店は営業時間の短縮のみならず、お酒の提供の一時的な制限、団体利用が見込めないなどの理由で苦戦してきました。デベロッパーとして何か支援できる施策はないか、昨年から検討をはじめ情報収集してきたなかにあったのがサブスクリプションサービスでした。2020年秋頃に、東京の商業施設で導入されていたものです。施設内の複数の店舗で共通して利用できる飲食のサブスクという点に魅力を感じて検討を始めました。

…サブスクリプションサービスにはいくつかのメリットがありますが、とくに注目する点は。

ひとつ目は、月500円の定額制なので500円の元を取ろうという心理が働き、動機付けから来店頻度の上昇を狙えます。ふたつ目は、よく利用するA店だけでなく、利用したことのないB店にも特典を目当てに行くきっかけができ、新規の来店動機につながります。
サブスクを導入している他施設での効果はまだ見えていませんでしたが、何も手を打たないで失敗するよりも飲食店支援として新しいことに挑戦してみようという思いが強かったと思います。

…サブスク以外にも検討したサービスはなかったのですか。

テイクアウトサービスも検討しました。部分的には導入していますが、人員を減らした体制で運営されている飲食店も多く、新しいことを発信しても人的負荷やコスト面から正直なかなか前向きにご検討いただくにはハードルが高いように思っています。サブスクは店舗のランニングコストを最小限に抑えられ、オペレーションの負荷もほとんどない仕組みなので、最初の取り組みとしては取り掛かりやすいのではと思います。

…サブスクリプションというのは、リピーターやファンづくりにも適しているサービスだといえますが、どんな点に注目されましたか。

サブスクに取り組んでいる業種はさまざまありますが、対価を払ったからには何度も利用しようという心理が働くビジネスモデルだと思っています。飲食店にとってリピーターづくりは重要な戦略であり、特典の提供にとどまらず、追加オーダーによる売上アップも見込めるという点では、飲食業態と非常に相性がいいと考えています。

…「ジョイワン飲食パスポート」の特典はどのようにして決めるのですか。

飲食店に施策を説明する際にいくつか特典内容の例を提示しますが、重要なポイントは一般的なクーポンやポイントカードと異なり、サブスクは有料のサービスであるため、通常の割引サービスよりもワンランク上の内容に設定することが大切です。具体的には、300円程度のお得感があり、2回利用すれば元が取れる設定になっています。特典内容の原価を補填するわけではありませんが、店舗側の負担を極力おさえ、追加オーダーや来店頻度アップが期待でき、利益につながると考えています。

ひと月にたった500円でお得なサービスを何度でも受けられるのが魅力300円相当のサービスが提供され、2回利用すれば元がとれるとか9月末までは初月無料のキャンペーンを実施中

…4月15日にスタートしてからの売上げへの貢献度や参加店の反応はどうですか。

翌週から緊急事態宣言が発令されたため、正直伸び悩んでいます。導入から約50名の方に会員になっていただきましたが、現状は約20名で、利用回数も店によってまちまち。初月の無料期間が終了し、更新する前に解約した人も多かったようです。対象店舗と会員数を増やすのが当面の課題といえます。参加店の反応としては、より店の魅力を高め、特典内容の見直しも検討したいという前向きな声が届いています。

…最後に、今後の抱負を聞かせてください。

テナントのなかには店長の権限で参加できる店舗もあれば、本部に稟議をあげないといけない店舗もあり、「いま考える余裕がない」という声も聞かれました。今後は参加店の拡大を優先し、魅力的なサービスを提供する土台づくりとお客様への告知を徹底することが、弊社の仕事です。告知はホームページや館内ポスター、デジタルサイネージ、チラシ、POPのほか、ハウスカード会員へのダイレクトメール等で行いますが、PR方法自体も見直すべきだと考えています。スマホユーザーに届くPRが求められています。

また、店舗だけでなく、テナント本部に対してサブスクサービスの理解を図っていくことも大切です。飲食店のサブスクはまだ馴染みがなく、多忙な店長の判断だけでは一歩を踏み出せない店も少なくありません。まだスタートラインにも立っていないので、積極的に参加していただいた11店舗のご期待に応えるためにも、もっと多くの店を巻き込んでいきたいと考えています。

今回は飲食店向けの施策ですが、例えば商業施設全体のサブスクサービスに発展させる可能性を模索する等、アフターコロナにおける販促活動のひとつとして定着させるべく挑戦を続けていきます。SC業界では、テナントとデベロッパーは運命共同体だとよくいわれますが、このような厳しい状況であるからこそ、両者で協働する取組みに新たな活路を見出していきたいと思います。

館内ポスターやデジタルサイネージ、チラシ、POPでも新サービスを告知する

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  • リゾーム社員一同