社長の一言集

リゾームが発行するメールマガジンに連載している『社長の一言』のバックナンバーです。

第146号 「不易流行」

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「不易流行」
                            2018年146号
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米小売り最大手ウォルマートの買収・提携戦略がすすんでいます。
その背景にあるのはアマゾンの脅威です。
日々、アマゾンとの戦いが激しくなっていく中、まさに時間との勝負です。

今年7月にウォルマートは、米マイクロソフト(MS)と5年間の戦略的パートナー
シップを結ぶことを発表しました。
MSのクラウドサービスを利用し、AI活用を一気に加速する方針です。
アマゾンを最大のライバルとする両社がタッグを組み、アマゾンに対抗するために、
パートナー契約を結ぶことは当然の流れだと思います。

ウォルマートは更に、インドの電子商取引(EC)大手のフリップカートを
160億ドルで買収し、株式の77%を取得することを発表しました。
フリップカートは1億人の顧客基盤を持つオンラインマーケットプレイスです。
ウォルマートのダグ・マクミロンCEOは、「その規模と成長率を考えると、
インドは世界で最も魅力的な小売市場の1つだ。当社の投資は、その市場で
Eコマースの変革を主導する企業と提携する好機となる。」と語っています。

一方、日本ではウォルマート傘下で国内スーパー大手、西友を売却する話が
新聞紙面を賑わせています。
世界的な事業の選択と集中の中で、成長が見込めない日本市場からの撤退とも
考えられます。

西友は、2018年5月時点で全国に335店舗を展開していますが、老朽化した店舗も
多く、売却については厳しい条件交渉になることが予想されます。
かつて、日本の流通業の一翼を担った西友がこのような状況を迎えなければ
ならないことに、同じ流通業出身者として一抹の寂しさを感じます。

しかし、西友のプライベートブランド「無印良品」事業から、巣立っていった
「MUJI」でおなじみの良品計画の輝かしい存在も忘れてはいけません。

西友から、良品計画の再生そして躍進に必死に取り組まれた経営者松井氏の掲載
記事を、ご紹介させてください。

2018年2月27日日本経済新聞掲載 
            (良品計画元会長 松井忠三氏) 私の履歴書より抜粋
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 「肺がんで間違いないと思います。リンパに転移している可能性もあります」
 2009年(平成21年)7月14日、20年近く健診を受けているクリニックの先生から
 紹介された慶應大学病院でこう宣言された。60歳。セカンドオピニオンの
 結果も同じ。「早く手術を」と言われ妻、珠江も動揺した。

 最近、あの時のことを聞いたら「家の中に色がなくなった」と言っていた。
 還暦を迎えたばかり。会長になり1年あまり、余裕もできていた。
 思い当たるのは20代の喫煙歴くらい。
 親戚など周りでがんに罹ったという話も聞いたことがなかった。
 なおさら「なぜ自分なのか」と自問自答を繰り返した。
 いろいろなことが走馬灯のように思い出された。

 1956年(昭和31年)に入学した小学校に始まり、バレーに熱中した中高時代。
 大学での学生運動、そして社会人生活。
 回想しているとふと涙が頬をながれた。
 改めて人間ドックのレントゲン写真を見た医師から「2年前から発生が
 見受けられる」と告げられる。
 「社長業は命と引き換えだったのか」と心底思った。

 それはまさに様々な出来事に押しつぶされそうになりながら取り組んだ
 良品計画再生の時期に重なる。
 暴飲暴食をした覚えはないのに体重が短期間で13キロ増えたこともある。
 株価が低迷し買収の危機が現実味を帯びた時は奥歯が6本も抜けた。
 代償は大きかった。

 この事実を会社に報告しようか迷ったが、言わずに「持病の腰痛がひどく、
 椎間板へルニアの手術をする」と伝えるにとどめた。
 手術日は8月5日、慶應病院。
 この日は娘の出産予定日と重なり、妻は掛け持ちで私の介添えをしてくれた。
 妻以外家族にも事実は伝えていなかった。5時間の手術を終え、退院は19日。
 執刀医の野守裕明先生からは「5年後の治癒率は7、8割です」と言われた。
 療養中、見ているテレビ番組は健康に関するものばかり。
 夫婦の関心ごとがそこに集中していた。

 2年後の検診で「影がある」と言われた時には本当に覚悟をしたが再検査で
 シロとわかる。そして5年がたち、野守先生が「治癒しています」と太鼓判を
 押して下さった。命の恩人だ。

 14年10月、熱海のホテルで子供、孫たち17人が集まったときにその事実を
 伝えた。
 驚くのも当然だったが完治していたのでとても喜んでくれた。
 出産後にずっと一緒にいられなかったことを不思議がっていた娘も納得して
 くれた。
 再発という不安を抱えながら私を支えてくれた妻には本当に感謝している。
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「社長業は命と引き換えだったのか」と心底思った。という言葉には
何度読み返しても、目頭が熱くなってしまいます。

今まで誰も経験したことのない未来へ向けて、時間・資金・人員をどう分配し
力を注ぎ、どれを撤退させるか、という選択は、大変難しい経営判断では
ないでしょうか。

私は、成長性、自社の強み、投資効果等の判断基準だけではなく、
自社の「経営理念」「創業の精神」に照らし合わせてどう判断すべきなのか?
株主だけではなく、お客様、社員さんのためにどう判断することが正しいのか?
という、判断基準も持つべきではないかと思います。

松尾芭蕉は「不易流行」という言葉を残しています。
不易とは変わらないこと。流行とは変わること。です。
変えてはいけないことと、変え続けなければならないことの大切さを伝えて
います。

常に、経営判断は、この二つの相反する考え方を融合していかなければならないと
思います。
変えてはいけないことをないがしろにして、目先の判断、損得で経営判断をすると
会社の独自性や存在価値を放棄してしまうことになりかねません。

                       株式会社リゾーム
                        代表取締役 中山博光
                        
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